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二十五日
宴会もようやく済んだ、二十五日。
やっと出発かと思ったら、
「文です。文ですよ」
役人らしき水干姿の男が走ってきて、呼び文だと言う。
家人を率いる家令の中年男性、川股が、がっかりした表情で私らに命令した。
「おい、これから国司の館に戻るぞ。新国司様が到着されて、紀貫之様にご挨拶をしたいと言うから」
「えっ」
聞いても私も、びっくりだ。
引き返すなんて、今さっき出て来たばっかりなのよ。
紀貫之様と入れ替わりで来た新国司のが挨拶をしたい?
まあ、紀貫之様は有名であるけれど・・・
ちょっとぶしつけな人でないのかと思った。
皆、なんで?また戻る?と思ったが、私らは紀貫之様の家来だ。紀貫之様が行くところには従ってゆくのが基本だ。
ゆえに、私たちはせっかく船に乗り込んだけれど、現地にまたぞろぞろと引き返すことにしたのだった。