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二十二日

 二十二日。


「船の航海が滞りなく進み、無事に和泉の国まで辿り着きますよう、祓いたまえ、清めたまえ」

 出発前に紀貫之様と一家の皆でお祓いをしてもらったあと、私たちは船に乗り込もうと、港へ向かった。

「お別れが寂しいです。土佐と京では離れてしまいますね」

 大津の港では大勢の人が別れを惜しみ集まって来ていた。

 なにせ有名人で国司で、友人の多い紀貫之様だ。仕事の役人、和歌の友人、地元の友人と、続々と来る。

「道中、ご安全に辿り着きますように、祈っております」

 特に大事な友人は、特に長年の交流があった、藤原時実ふじわらときざねという人、八木保則やぎやすのりという人、国分寺の住職だ。

 皆、御餞別をくれた。珍しい砂金で、皆が目を見張って喜んだ。

「つつがなき航海であらせられるよう」

 藤原実時という人は優しい人だ。船旅だけれど、馬の鼻を目的地に向ける儀式をしてくれた。旅の安全を祈って、馬の鼻先を向ける。陸地でやる安全祈願で、船でも安全に旅出来るようにということだった。

「世話になりましたね、ありがとう」

 和歌で一躍時の人になった紀貫之様は取り囲まれて声をかけられ、紀貫之様もお優しい方だから、全員に挨拶を返した。

 この挨拶が済んだ後は大勢で集まって、酒と御馳走を囲んでの宴会だ。 五年もの長い間親しんだ友人との別れは尽きず、盛大な宴会だった。一という文字を知らない人が十の文字を描くほどのステップを踏んで酔っぱらった。上中下の区別なく、好き勝手に騒いで大盛り上がりだった。

 なんとこれが二十三日、二十四日と続いた。

(はあ、やれやれ、まだ出発しないの?)

 子供たちは酒が飲めないし、酒の匂いは苦手だ。御馳走が出されて良かったけど、酔っぱらって騒ぐ大人たちの姿はついていけない。はやく終わらないかなと私は思った。

「なんだ、お前、船旅が心配なのか?」

 楽の音や嬌声が響く中、時文様が隣に座っていて、偉そうにお酒などをお酌して、自分は飲めないのに注がれるのだけは受けて、大人ぶった顔をしていた。

「違うわよ」

「ま、いざとなったら、俺が守ってやるから安心しろ」

 時文様が気障っぽく言う。

「とりあえず、始終これから俺のもとを離れないように」

「な、何よ。急に優しくしてくれるようになって、京へ上るから、偉そうにし始めたの?」

「何を言っている。いつも俺はこうだろ」

 手をぐいっと突き出された。見ると、錦に包まれた細長い包みだ。手にした感触はずしりと重い。これは短剣だ。

「そんなに心配なら、これを持っておけ」

 こんなものをくれるなんて、意外だった。硬い、重いものに、私は焦ってしまった。

「分かった。いざとなったら、これで自分は自分自身を守れというのね」

「まあ何でも、いざと場面があるから万一のためだが、いつも俺のそばにいたら何も起こらないだろ」

「時文様ったら・・・急に帰るとなってどうしたの?」

「いつもと変わりないだろ。俺だってやる時はやる」

 何か自慢げに言われたので、私はやり返しくなった。

「警護の是則これのりが若様の護身についてますから、そりゃ、時文様の近くにいたら安全ですよね」

「ぐ・・・」

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