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第1話 イスルド村の少年

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第1話 イスルド村の少年



「よし…準備はOK!

 んじゃ行って来ます!」



勢いよく家を飛び出したこの少年…名をルーイ・トラセスという。

17歳になる元気が取りえの少年だ。



ここイスルド村はアスファルド大陸の西端に存在している小さな村だ。

人口は100人ほど。


皆が皆顔見知りで、平和で穏やかなところが自慢だ。

周りを木々に囲まれた自然溢れる土地。


中央都市からも離れている事もあり、ほとんど隔離された生活をしている。


もっとも移動手段はある。

2時間ごとに1本、中央都市行きのバスと電車が走っている。


まぁよほどの事が無い限りは村の人は村から出ない。

皆この村が好きで、特に不便は感じていないからだ。



「ようルーイ!これもってけ!」



ヒュッ!


通りがかった食料店の親父さんがルーイに何か果物のようなものを投げ渡した。



「サンキューおっちゃん!

 ニコの実だ!いいの?」


「いいよ!お前には世話になってるからな!

 もう一個!ほらよ!」



親父さんはもう一つニコの実を投げてくれた。



「先生の分だ。行くんだろ?」


「うん!ありがとう!」



「先生によろしくな!」


「うん!」



"先生"というのは、俺の師であり…命の恩人でもある。

いつも調べ物をしているからか、村人はいつしか彼を先生と呼ぶようになっていた。



―――

――



村を北上して、少し離れた場所に先生の家はある。

最初はこんな場所に住まずに、村の中に住めばいいのに…

村長や大人たちはそう提案したが、彼はここでいいと断っていた。


まぁちょっと変わり者かもしれない。



「さて…ついたぞ」



相変わらずボロボロの一軒家だ。

森と一体化してるかのように、屋根やそこらにツタが生えている。



「お邪魔しまーす。先生ーー!

 レンジ先生いるー?」



「ルーイかぁー?悪いが今手が離せないんだ。

 上にきてくれ」



どうやら2階の書庫にいるようだ。


俺は二階に向かった。


ギシギシ…



この階段の軋む音が毎度不安で仕方ない。



「先生…いい加減階段修理しようよ」


「そうだな…」



机に向かって調べ物をしてるようだ…。

辺り一面本だらけだ。



「先生…いくらなんでも散らかしすぎでしょ」


「いいのいいの。俺には俺の配置ってのがあってだな…。

 んで、どうしたのルーイ、なんか用か?」



ようやく本から目を放してこちらを向いてくれた。



「…いや…そうだ!

 これ食料店のおやっさんから!」



ルーイはニコの実を投げ渡した。



「サンキュー!…ニコの実か。

 これ甘くて俺の好物!」



シャクッ!

レンジは一口かじりついた。



「んーーー!ジューシーー」


「なぁ先生…調べ物はどうなの?」



「んー…読めば読むほど面白いよ。

 俺は日本人だし、ここに来るまで外の世界なんか興味なかったんだがなぁ…

 いやはや…この世には、まだまだ不可思議なことが沢山あるんだなぁ!

 まさに世界は広い!だな!」


「全部が全部本当じゃないかもしれないよ?

 古い本だし…むしろフィクションが多いと思うよ」



「夢の無い事言うなよ〜…まぁそれはごもっともなんだけどね。

 だからこそ、俺はこの目で真実を知る必要があるんだ」


「はは…」



「む!?馬鹿にしてるな!?

 いい大人がロマンチックで悪いかい!?」


「ううん…そういうんじゃないんだ…。

 別の事考えててね…」



「別のこと?」


「うん…。先生がこの村に来てからもう4年も経つんだよなぁって…思ってね」



「4年か…もうそんなに経つのか。

 時間が流れるのは早いな…」


「先生…調べ物が一段落したら…

 この村を出て行っちゃうんだよね…やっぱり」



ルーイは俯いた。



「…そうだな。俺はこの地に調べ物のために来たわけだしな」


「俺…先生が出て行ったら、また一人になっちまうんだな」



「ルーイ…」



俺は両親がいない。

ガキの頃捨てられたのを、この村の人たちが拾って育ててくれた。


今は村長の家に厄介になってる。

トラセスの姓も村長から頂いたものだ。



両親については何処の誰かも、生きてるのか死んでるのかも…手がかり一つない。

もっとも、手がかりがあっても探そうとも思わない…。


昔は、見つけ出して文句の一つも言ってやろう…なんて考えもあったけど

今となってはどうでもいいと感じている。



「ゴ、ゴメン…!別にそんな事言いに来たんじゃないんだ!」


「お前は一人じゃないさ…村の皆は良くしてくれてるだろ?

 だから、俺は一人だとか言っちゃダメだ」



「うん…そうだね」


「…

(この子は多分別の意味で"一人"と言ったんだろうな…。

 他の村人は皆、村の出身…でもルーイは違う…。

 その点に引け目を感じているのかもしれないな…。

 よそ者である俺がいなくなれば、よそ者である自分はまた一人になる…。

 恐らくその気持ちを判りあえるのはよそ者である俺以外にいない…)」



「俺さ…先生に剣術と"あの力"を教え込まれて

 この4年間死に物狂いで頑張ってきた」


「そうだな…あの頃のお前とは比べ物にならないくらい強くなったよ」



「だから今度"仕事"が入ったら、俺一人に任せてくれないか?」


「!…」



「俺…先生の旅の手伝いをしたいんだ…。

 だから、先生に認められるような一人前のエクソシストになりたいんだ!」


「……いつか…お前からその言葉を聞く日が来る様な気がしてた。

 ルーイに剣を教え、霊術を教えてきたのは俺自身だから…俺がお前を止める事は出来ない。

 だからお前がその道を行くことを止めるつもりはないよ」



「ほ、ほんとに!?」



予想外だ…止められるかと思ったのに。



「だが、仕事をお前一人に託すにはまだ早い…。

 俺はそう判断してる」


「!…」



「ルーイ…お前は筋もいいし、腕前は認めているよ。

 でも、圧倒的に経験が少ない…実戦をある程度こなし…。

 様々な状況に適応が効くようになるまでは一人で任せるわけにはいかないな」


「経験って…んなもんしようにも、させてくれなかったじゃないか!」



「そうだね。

 だから…次からは一緒に仕事をしよう」


「!……いいの?」



「ああ。お前の力は頼りにしているよルーイ」


「先生…!」



一人で任せてはもらえなかったけど、これはかなりの進歩だ!

これで力を認めてもらえれば…俺は一人だち出来る!



ルーイは喜んで帰っていった。



「…」



レンジの日記―――


この地に渡り…はや4年が経過していたことを改めて感じた。

雪…お前はどうしているだろうか?


娘たちや義母さんは元気にしているのか…。

時々思うんだ…この選択が本当に正しかったのか。


俺とお前は"奴"の呪縛を受け…あの地に残れば周りに危害が及ぶ…

そう考えて、皆を置いて…バラバラに逃げた。



だけど、それで皆に心配をかけ…不安な思いをさせているかと思うと心が痛む。


それもこれも皆俺達が弱かったせいだ。

だからこそ強くならなければ…今度こそ大切な者を…家族を護れるように。


そのためには一刻も早く、奴と…近い将来訪れる"終焉の王"とやらを討つ術を見つけなければならない。

手がかりになるような資料は多い。


が、それが逆に災いして、何をどう信じればいいのかがわからない。



それにしても面白いのが、このアスファルドの人たちの"気"だ。

日本人の持つ霊気とは、また異質で独自の気を持っている。


さらには漫画や小説に出てくるような魔法使いのようにファンタジー溢れる伝記まで残されている。

もっとも信憑性は疑わしいものではあるが…。


とにもかくにも、俺達の使命をやり遂げよう。

こうして俺がやっているのだから、君はそれ以上に元気にやっていると信じたい。



いつかまた家族で笑い会える日が来ることを心より願う。


白凪蓮次―――




「ふぅ…。

 仕事…中々来ないなぁ…最近」



―――

――



翌日…



「…仕事来たよ…噂をすれば何とやらだな…」



ポストには仕事の依頼の手紙が入っていた。

レンジは普段村の手伝いの他、特殊な仕事を請け負っている。


その特殊な仕事というのが、祓い師の仕事である。


4年前…この村を訪れた時、怪事件を解決したことで

"ゴーストハンター"とか"エクソシスト"だとか…

呼ばれ方は様々だったが、とにかく変わり者として有名になってしまった。


それからというものの、たまに怪事件の解決依頼が舞い込んでくるというわけだ。

今ではイスルド村だけでなく、近隣の村や町からも依頼が来る。



驚くべきは、それだけの怪事件が起きているという事実。



「何々…」



レンジが手紙を開け、読み出した時だった。



「先生ー!」



ルーイの声だ。



「ルーイ…お待ちかねの依頼が来たぞ。

 読んでみな」



レンジはルーイに手紙を渡した。



「マジか!どれどれ…」



―――

――



親愛なるレンジ・シラナギ…


私はレイ・オークスの街に住むオッジ・ファレンスという者です。

この度、あなたの噂を聞きつけ…わらをも掴む気持ちで助けの手紙を書いた所存です。


実は私の一人娘のナージャが何日もまともに睡眠をとっていないのです。

眠りに落ちては1時間もせずに、悪夢でも見たのか…飛び起き、それ以降眠れなくなるのです。

そして睡魔が来てもまた1時間もせず、同じように飛び起き…。


医者にも見せましたが、特に何か原因が見つかることもなくお手上げ状態で…。

先生であれば、何か解決の糸口をつかめるのでは…そんな思いです。


どうか、一度私どもの街へ訪れ…娘を…ナージャを見てもらえないでしょうか…。

よろしくお願い致します…。


――

―――



「先生…これって…!」


「…行って実際にこの目で見てみないことにはなんとも言えないが…

 最悪の可能性もある…」



「じゃあ…!」


「うん。行こうか…レイ・オークスへ!」



こうしてルーイにとっての初の仕事が始まろうとしていた。



第1話 完   NEXT SIGN…

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