第3話
「……というわけで、私は一匹の金魚の命を救ったのさ」
今さら遅いが、ふと感じてしまう。わざわざ話すほどの内容ではなかったな、と。
つまらない話を聞かせてしまった。そんな後悔もあり、とりあえず話を締めくくる意味で、冗談っぽく付け加えてみる。
「うん、それだけの話なんだ。これが『鶴の恩返し』とか『笠地蔵』みたいな昔話ならば、金魚がお礼をしに来てくれるんだろうけど……。残念ながら現実では、そんなファンタジーは起こらないからね。ハハハ……」
思いっきり笑い飛ばす私とは対照的に、高梨さんの表情からは笑顔が消えて、真顔になっていた。
少し気まずさを感じてしまうほどだが、それどころではなかった。彼女の瞳からは、一筋の涙がこぼれたのだ!
「えっ!? 高梨さん、どうして……」
今の話のどこに泣く要素があったのだろうか?
男は女の涙に弱い、という言葉もあるように、私は酷く焦ってしまう。
目の前で女の子に泣かれるのは、学生時代に恋人と別れた時以来だ。しかもあの時は、私の方がフラれる側だったのに、なぜか女性側が泣き出したのだ。
……などと昔を思い出してしまうのは、ちょっとした現実逃避なのだろう。
「ごめん、高梨さん。何か君を悲しませること、言っちゃったのかな?」
出来る限り優しい声をかけると、彼女は首を横に振りながら、右手で涙を拭った。
「いいえ、違うんです。悲しいんじゃなくて、たぶん嬉し泣きです」
「嬉し泣き……?」
「はい。ちょうど言いかけていた、いつも見る夢の話です」