魔獣討伐
「よーし、次は討伐依頼だ~」
清掃の依頼を終えて、討伐依頼を遂行するため城壁を出た。
「魔獣の討伐だったな」
「そうそう、デビルボアって言う魔獣なんだ〜」
「どんな魔獣なんですか?」
メルが聞いた。
「一言でいうと、威勢のいいイノシシかなあ」
「威勢のいい?」
「あのイノシシなんでも食べるからね〜。人とかもよく食べるよ」
「よく食べる…」
「コワイ…」
ハチとメルは、顔を青くしながら俺に引っ付いてくる。
「二人を怯えさせないで欲しいんだけど」
「あらら、ごめんね〜」
レイチェルは面白がりながら、軽く謝った。
「あ、そういえば、みんなは何の武器で戦うのかな〜?」
「俺は長剣だな」
「私は短剣です!」
「弓…」
「ふむふむ…、見たところ"魔導器"はないし、魔法は使わないのかな〜?」
「魔導器ですか?」
メルが聞いた。
「あら、知らない?…これ見てみて〜」
レイチェルは右手につけている腕輪を見せた。腕輪には円状の模様が彫られている。
「これは魔法陣といってね、これが彫られてるものを魔導器って言うの」
「へえなるほど、これがないと魔法は使えないってことか」
「そうなんだよね〜」
レイチェルはふと、何かを見つけた。
「あ、獣道だ」
「…ほんとだ」
「レイ兄わかるのかよ」
「まあ、そこそこの知識はあるけど」
「じゃあレイくんが道案内してみようか」
「…まあ、そうなるよな」
これは試験だから、出来ることはやらなきゃだな。
「ええっと、足跡の向きは…あ、新しい足跡がある」
「お、幸先いいねえ〜」
「うん、多分向こうの方にデビルボアがいるな、んじゃあいくか」
「はい!」
「メル、もうちょっと声を抑えような。気づかれるかもしれないから」
「あ、はい…」
◇
「こいつか…」
しばらく身を潜めながら道を辿っていくと、ヤギのような角が生えたイノシシが鹿の死骸を貪っている。
「うわあ…本当にあれと戦うのかよ」
「ちゃんと作戦を錬れば大丈夫だよ〜」
「そういう事じゃなくてよお…」
「大丈夫大丈夫、ほらレイくん行ってこーい」
「え、ちょっ」
レイチェルに背中を押されて、デビルボアに気づかれてしまった。
「ったく、作戦もくそもねえじゃん」
「危なくなったらフォローするからさ〜」
「はあ…」
デビルボアは獲物を狩ろうと突進を仕掛けてきた。それを半歩左に避けて、すれ違いざまに剣で下からすくい上げる。
「ハチ!顎に矢を撃ってくれ!」
「おう!任せろ!」
「メル!矢が刺さったら一緒に脚を取るぞ!」
「わかった!」
顎は生物として急所の一つ、ハチなら射ることは難しくないはずだ。問題はその後、直ぐに逃げられる可能性がある。なので脚を二本ほど同時に使えなくさせる。これならハチとメルは上手くやれるだろう。
即座に立ち直ったデビルボアは、また突進を仕掛けてくる。
「攻撃方法が突進だけならどうにかなるけど」
どうやらそれだけでは無いようだ。デビルボアは紫色のオーラを纏うと、一瞬で目の前まで間合いを詰めてきた。
「っと…こわいなそれ」
上手く剣で捌いて避けることは出来たが、刃が通らない。毛皮がとても邪魔してくる。
デビルボアはまた紫色のオーラを纏った。
「でも、知ってればいけるな」
もう一度避けて剣ですくい上げる。そこに矢が飛んできて、見事に顎へ直撃させた。
「ナイスハチ!やっぱ刺突なら効くか」
顎を出血したデビルボアは、自身が狩られてしまうと考えたのか逃げようとするが、近くに潜んでいたメルが道を塞ぐ。俺とメルでデビルボアを挟み、ハチが矢を引いて三方向から追い詰めている状況でデビルボアが取れる選択肢は一つ。
「よし、今だ」
予想通り誰もいない方向へ逃げようとするデビルボアを、先回りして剣で脚を振りぬくように叩き、メルは素早く短剣の切っ先を上手く使って、剛毛を掻い潜ってアキレス腱を斬った。
完全に脚が折れ腱が切れたデビルボアは、悲痛な叫び声を発して倒れ込む。
「…ごめんけど、ひと思いにやらせてもらうぞ」
そう言って、俺は首に剣を刺し込んだ。
………
『スキル《戦闘技術》を習得しました』