異形と狼の決着
木々がざわめき緊張が奔る中、異形と相対しながら膠着したままで様子を見る時間が続く。
(幻技は…まだ使えないみたいだな)
刀身が小さく低音を発しながら陽炎のように周囲の空気を歪ませている。これが落ち着くまで、しばらくの間は使えないということだろう。試しに使ってみようとしても反応はない。
さてどうするか…
しばらく見合っていると、異形は痺れを切らしたように飛び上がり、紫色の鎌鼬のようなものを複数飛ばしてくる。
「えっ、やばっ」
俺は鎌鼬の射線を見極めながら回避していく。鎌鼬は地面に突き刺さると、爆風とともに消滅し砂埃だけを残した。
後ろにいる狼は、息を大きく吸い込むと鋭い咆哮を上げる。すると咆哮は金色の光を纏い、鎌鼬を粉々にしながら異形へ迫っていく。
異形はそれを身を翻して躱し、立て続けに鎌鼬を乱射する。
「ぎゃあああ!?こっちまできたぁあ!」
「わぁー!」
エナとメルが鎌鼬から逃げ惑いながら悲鳴を上げているのが聞こえてくる。そして鎌鼬によって木々が薙ぎ倒され二人に降りかかって来るようになってから、さらに騒がしくなった。
「大丈夫かあいつら…」
…まあなんとかなってるし大丈夫か
依然として鎌鼬の雨は止まず、狼の咆哮は躱されサクラの魔力弾も鎌鼬によって相殺され有効打を与えられていない。
ハチの矢も…
「あぁ!クソッ!弾かれた!」
ハチの矢は一射目で弾幕の間を縫いながら命中するが、突き刺さることなく弾かれる。無傷のまま元気に飛び回っている異形の様子に苛立ちながらも、再び矢を番えていた。
「しかし、こりゃ長引くぞ…」
しかし次の瞬間、俺が溢した言葉を掻き消すように連鎖的な爆発が空中を覆う。
「お…?サクラか」
「ちょっと時間かかっちゃった」
振り注ぐ鎌鼬は爆発によって消し飛ばされ、異形は黒煙の中から不安定に揺れながら抜け出してくるのが見える。そこに透かさず狼の咆哮が飛び、敢え無く直撃する。
咆哮を受けた異形は無数に切り裂かれ、傷口からは紫色の煙が立ち上がった。
何が漏れてんだあれ…魔力か?
「来るよ!」
サクラの声に俺は剣を構え直す。異形は甲高い鳴き声を上げ鎌鼬を飛ばし、落下の勢いを使いながら狼に向かって突撃してきた。
狼は咆哮で鎌鼬を消し飛ばすが、その咆哮を異形には避けられてしまい距離は詰められる一方だ。サクラの魔弾も落下の速度と複雑な動きで翻弄し、狼の咆哮も盾にされ異形には当たらない。
「…そうだな」
異形は狼の直前まで接近し、目を見開きながら紫色のオーラを纏うと鋭い牙で噛み千切ろうとする。
…よし、今
「目だ!」
「っ!」
俺の声に合わせてハチの矢が異形の眼球に命中し、視界を遮る事に成功する。異形が悲鳴を上げながら空中で悶えている隙に狼は飛び退き、俺は入れ替わるように異形の下へ潜り込む。
「幻―」
サクラの話によれば、これは現象を再現するもの…『ストレングスライン』では通じなかったが、違う現象なら…
「―技」
言い終わった直後、刀身は赤白く発光し始め『キュルキュル』と摩擦音の様な音が発せられる。
来た…。効果は分からないが、この状況なら失敗しても余裕でリカバリーは出来る
「…物は試しだ」
しゃがみ込み、立ち上がる勢いを利用しながら落下してくる異形を目掛けて剣を振り抜く。
すると剣は異形に深々と入り込み、正中線上をなぞる様に掻き斬った。
『幻技《フレンジーリアクト》を習得しました』
「…大当たりだったな」
俺は呟き、素早く狼の前に立ち様子を見る。
地面に打ち付けられた異形はのた打ちまわり、甲高い鳴き声を発すると、目を瞑り痛がる様子を見せながらもこちらを振り向く。
うん…?
(まるで見えているようだな…。もしかすると超音波…エコロケーションが使えるのか…?)
異形は鎌鼬を複数生み出すと、俺たちとサクラたちの方へ飛ばして牽制しながら地を蹴ってこちらへと距離を詰めてくる。
狼は咆哮を飛ばすと、俺の頭上を通って鎌鼬を消し去り異形へと迫る。それに対して異形は上へ跳んで躱し、そのまま狼の前に立ちはだかる俺へと鎌鼬を飛ばしながら鋭く滑空してくる。
「まずはお前から…ってか」
俺は降ってくる鎌鼬の射線を見極め隙間を縫って躱していき、迫りくる異形を待ち構える。
異形は紫色のオーラを纏い、口を開いて鋭い牙を向けてきた。
接触の時――
俺は異形の重心を見極めながら、身を沈め下へ潜り込んで異形の噛み付きを躱すと、着地間際の脚を払う。
すると異形は体勢を崩し、着地に失敗してそのまま地面を転がった。
そしてその隙を狼は見逃さず、金色のオーラを纏って異形の首筋に噛み付こうとして牙を剥くと、異形も応戦して無理矢理な体勢から紫色のオーラを纏い、同じく牙を剥いた。
…………
………………
勝負は決まった。
狼が異形の首筋を噛み千切り、異形は為す術もなく体内から紫色の煙を放出し尽くして完全に脱力した。
「…終わったか」
もう動かなくなった異形の亡骸を見据え、俺はそう呟いた。
そうしていると全員がこちらへ駆け寄ってくる。
「おつかれ」
「…ああ、皆もな」
サクラの労いの言葉に、俺はそう返した。




