予感
「戦いには四つの構成要素がある。防御、回避、崩壊、そして攻撃。エナさんはこの内、崩壊の部分が抜けているから次はそこをやろう」
「崩壊…それはなんだ?」
「要は崩しのことだな。防御した時、攻撃した時、どこか触れ合った時に相手の態勢を壊す技術だ」
俺はそう説明して、そこら辺に落ちていたちょうどいい木の枝を拾う。
「じゃあ、上からの攻撃にはどう防御する?」
俺はそう言って、木の枝をエナの頭上に掲げる。
「そりゃあこの盾で受ける…しかないんじゃないか?」
エナはそれに、盾で防御する姿勢を取る。
「まあ、防御するだけならそうだけどな。防御から崩しに持っていくにはもうひと手間ほしいところだ」
「崩しに持っていく…もしかして剣を使うのか?」
「ああ、正解だ。正確には盾を第二の鍔として使う。
こうやって盾を持つ手を剣の持つ手と重ねれば、刀身と合わさって鍔が出来るから。そこに引っ掛けたらあとは剣か盾で相手を制御すればいい。これなら手元も守れるしで一石二鳥だ。盾で抑えたらもう剣で何でも出来るし、剣で抑えるなら体術に持っていける。多数戦だと体術はポジション取ったりでけっこう重要だったりするな」
「なるほど…盾にそんな使い方があったんだな」
「それじゃ、頭で理解したところで実践だ」
「よしきた!」
そんな感じで俺がエナを指導していると、端で見ていたサクラとメルとハチの三人が話している声が聞こえてきた。
「そういえば、エナさんとレイ兄がやってたあの光る剣は何なんだ?」
「たしかに、私も気になるー」
ハチがサクラに質問し、メルもそれに乗っかる。
「二人はエーテルの話を覚えてる?」
次はサクラが二人に質問する。
「ん?ああ、スタンピードの予兆を調べるって話だっけか」
「たしか、周波数を測るんでしたよね?」
「うん、その通り」
サクラは微笑みながら頷き、再び口を開く。
「あれは『幻技』って言ってね、そのエーテルの周波数を変動さることで色んな現象を付与する技なんだ」
「現象を付与?」
「そう、例えばエナちゃんとレイ君が使ってたやつは、元の質量にプラスしてさらに質量を上乗せした現象が起こるっていう幻技だね」
「重さが変わるわけじゃないのか?」
「重さは変わらないけど、影響されたものにそう言う現象だけが起こるってこと」
「ってことは、普通にぶん回せるけど威力がめちゃ強になるのか」
「押し当てるだけでも、相手は重さに耐えられなくなって動けなくなるよ」
「おもしろーい」
「だけど注意点があってね。物質から発せられるエーテルの周波数を変動させて色んな効果を生み出せるんだけど、その後にはその物質のエーテルの周波数が不安定になるから安定するまでしばらく使えなくなるんだ。要はクールタイムだね」
「使い方を考えなきゃいけないんだな」
「むずかしそーう」
「それと、魔法には効かないから気を付けておいてね」
「え?そうなのか」
「へぇー?」
「幻技はエーテルの周波数を持っているものにしか影響が出ないんだけど、魔力で出来たものにはエーテルの周波数を持ってないから」
「それじゃ魔法が強すぎねえ…?銃弾みたいな速度のをバカスカ撃って来るし…」
「そうでもないよ、幻技には魔法とは違う役割があるから」
「ふぅん、そういうもんか」
「それと、さっき私が撃ってたやつはまだ魔法じゃないよ」
「あ?魔法じゃない…?」
「え?」
ハチとメルは驚き固まった。
「あれは魔法の前段階の『魔力圧縮形』っていうやつで、そこから呪文とか魔法陣で肉付けしたものが魔法になるんだ」
「って事は、魔法はあれより強力ってことか…」
「どうなっちゃうの…?」
「それは防衛戦までのお楽しみってことで」
「えー!気になるー!」
メルが身を乗り出して目を輝かせる。
俺はその様子を見ながらエナを指導していると、エナが俺に問いかける。
「なあ、あの二人は初心者なのか?」
「ああ、今日が初めてだ。ついでに俺もな」
「え!師匠も!?」
「…その呼び方で落ち着いたのな」
俺は肩をすくめようとして…後ろを振り返る。
「…?どうした?」
「…いや、気のせいだ」
振り返った方向を見つめながら、エナに返事をした。
◇
「う~ん…なかなか見つからないね、セイクリッドリリィ…」
街道を逸れて、草木をかき分けながら依頼にあったセイクリッドリリィを探していると、メルがくたびれたような言葉を漏らす。
「ここら辺はもう刈りつくされた後かな?…もうちょっと奥の方見てみようか」
「え?だが向こうは…」
「あ、そっか」
「なんかあるのか?」
エナとサクラの、要領を得ない会話に問いかける。すると最初に、サクラが口を開いた。
「向こうにはね、大型の魔物が住み着いたらしいんだ」
「ああ…最初はC級の討伐隊が向かったらしいんだが、結果は惨敗。今度はA級の冒険者を募集してるらしい」
「A級が出るってことは、かなり危険ってことなんだよ。今は近づかない方が良いかもね」
「そうなのか…じゃあそうするか」
そう言って、俺はみんなと一緒に踵を返そうとするが…足を止める。
「どうしたの?」
そんな俺の様子に、サクラが問いかける。
「…やっぱり、もうちょっと進んでもいいか?なんか嫌な感じがする」
「嫌な感じ?」
「ああ、行かないとざわつくというか…見逃したらダメな気配というか…」
「け、気配…?」
エナが困惑した表情でこちらを見る。
「まあ、最悪死んじゃっても生き返るしいいけど、なんだろうね」
「とりあえず行ってみよう」
俺たちは、森林の密度が濃くなり日差しも防がれた暗い中を進んでいくと、地面にあるものが目に入る。それは赤い粒子の様なものが集まり、道筋を作っていた。
「これは…」
「うっ…この臭いまさか…」
ハチが鼻を抑え、サクラを見る。サクラは数秒のあいだ口を紡いでいたが、やがてゆっくりと口を開く。
「これは…血だね」




