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武人とゲーマー  作者: 亜麗(あれい)
12/13

森の奇襲者

「なあ、どこに向かってるんだこれ……」


 城壁を出てすぐの草と木が鬱蒼うっそうと茂る森の中、舗道はされてない踏み固められた道を上機嫌で髪を揺らせて歩くサクラに俺たちは付いて行っていた。その道中、俺はサクラに問いかけると、サクラは得意げな顔でこちらへ振り向き、歩みを止めて腰に掛けている鞄に手を入れた。


「ふふーん、これを見てごらん?」


 取り出したのは、おそらく周辺の地形を記した地図と冒険者組合が発行している依頼の用紙だった。

 そしてサクラは、地図を広げて特定の場所に指をさす。


「ここが私たちが出てきた『ヒルへイヴ王国おうこく』で、ここから西にある『ヒルへイヴ西前哨基地にしぜんしょうきち』へ向かってるんだ。ここがスタンピード防衛戦の前線になる予定の場所だよ」


「ふぅん、そうなのか…。で、そっちは?」


 俺は、依頼用紙の方を見る。


「こっちは薬草採取と討伐依頼でね、『治癒のポーション』の材料になる『セイクリッドリリィ』っていう花を出来るだけたくさん採取して持っていく依頼と、『フォールエイプ』の討伐依頼だよ。この魔物はもうちょっと先に行くと出てくるから、心の準備しておいてね」


 サクラはそう言い終えながら取り出した物を片付けると、再び歩き始めた。その後を俺たちも付いていく。


「フォールエイプ…落ちるサル?」


「なーんか間抜けな名前」


 俺の言葉にハチは率直な感想を漏らすと、頭の後ろで手を組んだ。


「どうしてそんな名前が付いちゃったんですか?」


 そしてメルがサクラに問いかけると、サクラは人差し指を上に指す。

 指した先には、幹のしっかりした木々が目に映る。


「それはね、木の上から奇襲を仕掛けてくる所から名付けられたの。だから、正確には降ってくるお猿さんが近いかな」


「なるほど!降ってくるお猿さん!」


 メルは納得した様子で頷いた。

 そんなやり取りをしていると、ハチが突然足を止める。


「どうした?」


「なあ…なんか聞こえねぇ?」


「…ああ、猿の鳴き声みたいなのは聞こえるけど」


「そうそれ!…結構遠くだ。フォールエイプって奴かな」


「えー??……何も聞こえないよ?」


 ハチと一緒にメルも耳を澄ましてみたが、その声が自身には聞こえないと悟ると眉間にしわを寄せた。そんなメルに、サクラは答える。


「それは多分、ハチ君が獣人族だからだね。獣人族は普通より聴覚と、あと嗅覚と平衡感覚が優れてるから」


「そうなのか?通りでいつもより感覚が鋭い感じがしたんだよな」


「へぇーいいなー、私もそっちにすれば良かったぁー」


「…でも最初の種族選択で、説明は出てたはずなんだけどなあ」


「こいつら意外とノリでしか生きてないぞ」


 俺がそう言うと、サクラは呆れ笑いを溢した。


「ん?じゃあなんでレイ兄は聞こえてんだ…?」


「そりゃ日頃から鍛えてんだよ。…それより、近づいてきてるぞ」


「えっ?」


 サクラは調子はずれな声を発して、その方向を振り向いた。それと同時に、サクラとメルの二人も声が聞こえ始めたのか共に身構える。


「ん?」


 視線の先から目に映ったのは、おそらくサクラが言っていたフォールエイプと呼ばれる猿が複数匹、集団となってこちらへ迫ってくる様子…


「ぎょおええええええ!!!」


 しかも、それを人が引き連れていた。


「あれがフォールエイプ?…だいぶ引き連れてんな」


「そうだよ。ざっと20匹くらい?逃げ回る内に増えてったみたいだね」


「やだあれ」


 ハチが蕁麻疹を出してそうな顔をしながらそう言った。

 そんな会話をしている内に、フォールエイプから逃げているその人の容姿が認識できる距離まで近づいてきており、その人は眼鏡を掛けた女性であることが分かった。こちらへ気づくと、眼鏡の奥から見える焦りの表情が、希望づいた表情へと変わった。


「すまなぁぁぁぁい!!助けてくれぇぇぇぇ!!」


 その眼鏡を掛けた女性は、よく通る叫び声でこちらに助けを求めた。すると、サクラが俺たちの前に踏み出し…


「じゃあここは私に任せて」


 そう言ってサクラは持っていた杖を掲げると、その先端部に刻み込まれた魔法陣が淡く光りだし、何もない空中から炎が噴き出した。


「ここまで真っ直ぐ走ってきて!!」


「り、了解したぁ!!」


 サクラが叫ぶと、眼鏡の女性は覚悟を決めた表情で走る速度をあげていく。

 そして炎は分裂していき、10つほどの球状を形作ると…


「ほっ」


 サクラの気の抜けた掛け声と共に杖を振ると、弾丸の様な速度で炎の玉はフォールエイプに直撃した。


「びえぇぇぇぇぇ!!!」


 迫りくる炎の玉と背後の爆炎に頭を庇って怯えながらも、眼鏡の女性は足を止めずにこちらへ走ってくる。


「半分はレイ君たちにお願い」


「わかった。んじゃ、いくか」


 そう言って俺はハチとメルの方を向くと、二人とも唖然とした表情で固まっていた。


「…あー、戻ってきたら加勢してくれ」


「……はっ!れ、レイ兄はよく平気だな…」


「まあ、大体サクラのやることはぶっ飛んでるし」


「もぉーなにそれぇー!魔法使いならこれくらいが普通だからね!」


「もっと野球ボールくらいの速さかと思ってたら、ガトリング砲だった…」


「た…助かったぁ…!」


 そして、ようやく眼鏡の女性がこちらへ辿り着いたところで、気を取り直したハチとメルは俺と共にフォールエイプと対峙する。

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