合格発表
「受付ちゃ~ん、エイミーちゃん呼んできてくれな~い?」
「あ、レイチェルさん…はい、かしこまりました」
「ありがと~」
冒険者組合に戻りレイチェルがカウンターに立っていた受付の人に喋りかけると、受付の人は裏方へ戻って行った。暫くすると試験の説明をしてくれたエイミーが受付の人と共に出てきた。
「皆さん、お帰りなさいませ。ここで立ち話をするのも何ですし、先ほどの教室へ参りましょう」
そういって微笑み先導して歩き始めたエイミーに、俺たちはついていく。そして教室に入り席に着くと、エイミーとレイチェルは教壇の上へ立った。
「依頼に関してはバッチリだったね~。デビルボアを私の手助けなしで何とか出来たし、人と話すときもしっかり受け答え出来てたし、地味な仕事も楽しくやってくれるし」
「でしたら、何も問題はなさそうですね」
「ということは~?」
エイミーの言葉にレイチェルは盛り上げるように煽る。
「…はい、合格です」
「お~、やったね!」
「やった!有難うございます!」
「はは…」
ぱちぱちと手を叩くレイチェルの盛り上げ芸にメルは元気に感謝の言葉を述べ、そのやり取りを見て俺は苦笑した。…一方ハチは、半目で何をしているんだ…みたいな表情をしていた。
「はい!さっそく依頼受けたい!」
メルは手を掲げ元気に身を乗り出して俺たちにそう言った。
「メル…依頼自体は3つもこなしたろ。もう十分だって」
元気なメルに呆れながらも、俺はそう言い放った。
「ふふ、それにまだ気は早いですよ。まずは冒険者ライセンスを発行いたしますので、少々お待ちください」
エイミーはそう言うとカラカラと教室の扉を開け、廊下を歩いて行った。
「…そういえば、レイ君たちこの世界にきて日が浅いでしょ?スタンピードがあと二日後に起きるのは知ってる?」
「ん?…ああ、知ってるっていうか、それで誘われて来たんだ」
「へぇ~そうなんだね~、ちなみに誰に誘われたの~?」
そう俺に聞くと、レイチェルは教壇の机に腕を伏せてこちらを覗き込んだ。
「知ってるかどうかわからなけど、サクラって名前の…」
「組合の中で前の方の席に座ってた子でしょ?もちろん知ってるよ~。組合の中じゃ結構有名人なんだ~」
「ええ…!!そうなんですか…!?」
レイチェルの言葉に、メルが勢い良く反応した。
「うんうん…でも納得だよ~、サクラちゃんの周りの子たちって実力がある子が多いからね~」
そういってレイチェルは、何回も頷くと笑った。
「……ということは~、もしかしてパーティーメンバーとして一緒に行動する感じなのかな~?」
「あ、そこらへんは聞いてないかも…」
「多分むこうはそのつもりじゃないかな」
レイチェルの言葉に指を顎へ置いて首を傾げるメルに、俺は自分の見立てを伝えた。
「だとすると~、サクラちゃんの実力的にたぶん君たちは安全な所に配置されないと思うな~」
「は~っ!?マジかよ!」
レイチェルの言葉にハチが驚きといった表情でのけぞった。
「なあ、俺らまだ初心者だぞ?そこらへんは考えてくれないのか」
「あはは~。まあ、君たちは実質死なないからね~。どこに配置するかは実力の上振れで決まるんだ~」
「俺そんなに戦いたくないぞ……だから弓にしたのに」
「まあ、足を引っ張らない程度には実力はつけないとか」
「そうだな~。ならまずは、サクラちゃんに魔法とスキルについて教えてもらうといいよ~」
「……確かに、まだ良く解ってないな」
俺が思案気味にそう言ったつかの間、教室の扉がガラガラと開き、エイミーが顔を出した。
「レイさん、ハチさん、メルメルさん、冒険者資格の発行が完了いたしましたので、お手数ですがカウンターまでお越しください」
「だってさ~…それじゃあ、行こうか~」
レイチェルがそう言ってエイミーについていくように促す。
先導するエイミーについていき、カウンターまで着くとエイミーは裏方のほうへ戻っていき、トレーを持ってこちらへ向かって来るとカウンターの机に置いた。見ると、トレーの中には四角い板状のもの…ちょうどその様相が運転免許証に似ているものが三枚横一列に並んでいた。
「左から順にレイさん、ハチさん、メルメルさんの冒険者ライセンスになります。ここに書かれているものは、個人を識別する番号とその個人の名前、受けられる依頼の難易度とその実力を表す階級、そして依頼を受けるにあたって有用な資格を持っているか否かが書かれています。紛失した場合は手数料がかかりますので、ご注意くださいね」
そうやって言い含めると、エイミーは俺たち一人ずつに冒険者ライセンスを手渡した。
「最初の階級はE級になります。ここからD級、C級、B級、A級、S級の順に上がっていきます。そして、高難易度の依頼は高額報酬ですが代わりに危険度が高くなるので、仮に高級の冒険者だったとしても慎重に依頼を選ぶことが肝要です。以上で説明を終了いたしますが、ほかに何かご質問等はございますか?」
「いや、ないです」
「俺もないな」
「私もー」
「ではこれで皆さんは無事、冒険者になられました。おめでとうございます」
「これで君たちも、晴れて冒険者だね~」
「ああ、お陰様でな」
「エイミーさん、レイチェルさん、有難うございました!」
エイミーとレイチェルに歓迎の言葉をもらい、俺が軽口を叩くとメルは元気な声で感謝の気持ちを言葉にした。それじゃあと俺も続けて軽くお辞儀をすると、今度はハチも続くように深くお辞儀をした。
「じゃあ早速、報告しに行くか」
「あら、お仲間さんがいらっしゃるのですか?」
「実はね~、あのサクラちゃんが誘ってきたんだよ~」
「え…?レイチェルさん…それは本当なんですか……?」
「ほら、あそこで暇そうにしてるでしょ?」
「本当ですね……」
レイチェルが指をさす方向を見て、エイミーは思いがけなかったと言う様子で言葉を淀ませた。
「ん?あいつまさか、ずっとあそこ居たのか……」
「よっぽど期待されてるんだろうね~」
俺の思わずこぼした言葉に、レイチェルは揶揄うようにそう言った。
「そうだエイミーちゃん、サクラちゃんにも挨拶してくるよ~。君たちもいいかな~」
レイチェルの言葉に俺はハチとメルの顔を見る。…どうやら問題ないようだ。
「いいぞ」
「ありがと~。…よ~し、じゃあ一緒に行こ~」