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京都へ


「兄さん、これ本当なの?」


 TVでニュースを見ていた結花が驚きとも恐怖とも言えない顔つきで聞いて来た。


「本当だ。高野景子は恐ろしい女だよ」

「沙耶さんを・・殺そうとしたの?」

「そこまで考えていたかは分からない。でも沙耶に嫉妬していたのは確かだな」


「いい女優さんだと思っていたのに。勿体ないね」

「・・そうだな。あ、俺と沙耶、仕事で京都に行くから1週間ほど家を空けるぞ」


「ははぁん、仕事にまで連れて行くなんて一時も沙耶さんと離れたくないんでしょ~」(このデレデレ兄さんめ!)


「違うぞ!(違わないが・・)本当に沙耶が京都に用事があるんだ」

「沙耶さんを独り占めしないで早く帰って来てよね」




_____




 沙耶は馨と涼と共に京都に建設中のホテルに来ていた。


「大きいホテルですね。外観はもう出来上がってるんですね」はるか上空を見上げながら沙耶がため息した。

「今は内装にかかっています。入ってみましょう」


 涼の後についてホテルのロビーに足を踏み入れるとカウンター正面の大きな壁の前で作業をしている男性がいた。


 壁に直接書かれた絵は下地がほとんど出来上がっている様で、京都らしい背景に佇む一人の女性が描かれていた。


「近くで見てみよう」馨が沙耶を促した。


 絵を描いていた男性が振り返った。背の高い中年の外国人は明るい茶色の髪を後ろで束ね、暖かなココア色の目で沙耶を見た。


 馨は男性を紹介した。「こちらはロビーの絵を描いてくれているルドルフ・ヴェルドーネ氏。ミスタ・ヴェルドーネ、妻の沙耶です」


「はじめまして、沙耶と申します」沙耶がニッコリと微笑むとヴェルドーネは一瞬息を飲んだが、笑顔で手を差し出した。


「こんにちワ。イタリアから来まシタ、ルドルフ・ヴェルドーネといいます。お会いでキテ光栄です」

「日本語がお上手なんですね」


「わたし、30年くらい前に日本に留学してまシタ」

「そうなんですね。この絵からも・・日本への愛着を感じます」


 沙耶は壁の絵を見上げた。少し横を向いた女性の顔が暖かく懐かしい気持ちを思い起こさせる。


「お母さん?」沙耶は食い入るように絵を見つめた。それを見た涼と馨は互いに頷き合った。


「石井麻里子さんは沙耶のお母様だね?」

「はい、母の名は麻里子です。でもどうして母がここに描かれているんですか?」


「あなたはお母様にトテも良く似てまスネ。笑顔がホントウに良く似てマス」

「ヴェルドーネさんは母をご存じなんですか?」


「わたしが留学していた美術大学で麻里子さんが働いていまシタ。麻里子さんはあなたの様に美しく、その上とても優しイ人でした。わたしは麻里子さんを愛しました。彼女もわたしを愛してくれまシタ。そしてあなたが生まれたのでス」


「えっ!」


 沙耶は思いもよらなかった事を聞かされて驚き、混乱した。


 この人が私の父? イタリア人のこの人が? お母さんはお父さんについて何も話してくれなかった。だから景子が私の父は殺人犯だと言った時信じそうになったわ。お母さんが何も話してくれなかったのは父が犯罪者だからだと思い込んで‥。


 それが、今日初めて会ったこの人から自分の父だと聞かされるなんて・・。でもどうして今頃になって?


「君も突然の事でびっくりしただろう。ヴェルドーネさん、場所を変えて話ましょう」


 馨の提案で4人は馨達が宿泊するホテルの部屋に移動した。


「沙耶さん、驚かせテすみません。ですが本当の話です。この26年間あなたに会える事だけを願って生きてきまシタ。こうしてあなたに会えてまだ夢を見ているヨウです」


「確かに目鼻立ちがヴェルドーネさんにそっくりですね。目の色も同じだし日本人離れしたスタイルは日本人とイタリア人のいいとこどりだったからなんですねぇ」涼はしみじみと言った。


 ヴェルドーネの話によると、留学先の美術大学で知り合った二人は愛し合い、2年の間交際していたが留学期間が終わってイタリアに帰国することが決まったヴェルドーネは麻里子にプロポーズ。同時期に麻里子の妊娠も発覚して幸せいっぱいの二人だったが、イタリアの家族が結婚に反対したらしい。


 直接会えば麻里子の良さが分かって貰えるとヴェルドーネは思っていたが、麻里子は妊娠初期だったため長時間のフライトを避けて、ビザが切れるヴェルドーネだけが一時帰国した。


 ヴェルドーネは麻里子と連絡を取り合いながら半年かけてようやく両親の説得に成功。麻里子を迎えに日本へ向かうはずだった。


 ところが空港へ向かうタクシーが事故に合い、ヴェルドーネは意識不明の重体に陥り、なんとか一命をとりとめたものの4年半もの間ずっと意識が戻らず植物状態だったそうだ。


 奇跡的に意識が戻ったがリハビリにも3年近い年月を要し、やっと普通の生活が送れるようになった頃には麻里子の行方が分からなくなってしまったらしい。


「わたしの両親は元々結婚を反対していたので、わたしが事故にあった事やその後の経過を麻里子さんに連絡しなかったノです。わたしからの連絡が途絶えて麻里子さんはどんなに不安だっタでしょう・・あなたを抱えて一人でさぞ苦労したと思いマス」


 ヴェルドーネの目は涙で潤んでいた。沙耶はそっとヴェルドーネの手に触れた。


「ヴェルドーネさんも辛い思いをされたんですね。幼かった私は当時の母がどう思っていたか分かりませんけど、私があなたと会う事が出来て喜んでくれていると思います」




 

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