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4-21 みのりの杞憂

 持ち帰ったアユをバケツに入れた僕たちはバスでしばらく一休みをする事になった。


「いろんなところを歩き回って疲れちゃったよ」

「ふふ、それでもみのりさんは昔と比べると大分たくましくなりましたよ。昔はすぐにバテてしまったのに」


 ナビ子ちゃんはたんぽぽコーヒーを淹れてくれて僕に手渡してくれる。ありがとうとお礼を言ったあと、僕はそれを口に含んで疲労を回復する事に勤めた。


 うん、やっぱりこの味だ。昔はまずく感じられたたんぽぽコーヒーだけど何だかんだで今はこれが一番だね。


 他の皆はバスの外でのんびりしているため車内では二人っきりだ。何だか最近は賑やかだったからこうなるのは久々な気がする。


「ねえ、ナビ子ちゃん」

「はい、なんデスか?」


 ……ちょうどいい機会だ。僕は勇気を出してナビ子ちゃんに不安に思っていた事を尋ねた。


「……僕が元の世界に帰る方法を見つけたら、ナビ子ちゃんはどうするの?」


 もし、僕の望む答えでなければ――僕は身勝手にも恐怖してしまう。それらは全て僕の我がままなのに。


「どうする、とは」

「この世界に残るか、僕の世界に行くか、それを聞いているの」


 言った、言ってしまった。緊張した僕の表情とは対照的にナビ子ちゃんはいつもどおりの能天気な表情だったけど。


「うーん、そうデスねー」


 彼女はあまり深く考えている様子ではなく晩ごはんの献立に悩んでいるかのようだった。そして、その答えを提示する。


「美味しいものがたくさんあるのはとっても、ひっじょおおおに魅力的デスが、ワタシはまずこの世界で記憶を取り戻さなくてはいけません。少なくとも思い出を見つけるまではこの世界にとどまるつもりデス」


 ああ、やっぱりそうか。彼女は結局一番は終末だらずチャンネルの皆なんだ。その事が悔しかったけど僕はその答えに希望を見出した。


「じゃ、じゃあ、もし記憶が見つかれば僕の世界に帰る可能性も」

「ええまあ。特に断る理由もありませんね、美味しいものがある以上は」


 ナビ子ちゃんはにっこりと笑ってそう答える。今回ばかりは彼女の食欲に感謝するしかない。


「それに、みのりさんもいますから」


 そして彼女はそんな事をつけ加えてくれた。僕はそれが何よりも嬉しかった。


「……うんっ!」


 なんだ、最初から悩む必要なんてなかったんだ。ナビ子ちゃんが僕を見捨てるはずなんてなかったんだ。


 ヒモ男の心境はこんな感じなのかな。でも構うものか。もし向こうの世界に戻る事があっても僕たちの関係は何も変わらない。それさえわかれば僕は頑張る事が出来る。


 そして僕は温かいたんぽぽコーヒーを口に含む。とても優しい味に舌鼓を打ちながら、終末の午後は過ぎていった。

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