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4-20 球磨川川上り

 さて、次に向かったのは市内を流れる球磨くま川の河原だ。澄み切った清流と緑豊かな大自然は一呼吸するだけで肺が浄化され、実に清々しい気分になってしまう。


 以前は川下りのための施設があったのだろうけど当然の如く残骸しか残っていない。球磨川はたびたび氾濫する事でも知られているし流石に耐えきれなかった様だ。


 渡し舟も竿もちろんないから、川下りも出来ない。だけどなければ作ればいい。


「そいやー!」


 ナビ子ちゃんはいつものようにブレードを展開して木を切り渡し舟と竿を作成する。急ごしらえだけどなかなか立派なものが出来、彼女は満足げに額の汗をぬぐった。


「おー」

「パチパチー」


 初見の光姫ちゃんとうみちゃんは感心して拍手を送る。僕はもう見慣れたけどこれって結構すごい事なんだよね。


 ナビ子ちゃんはいつの間にか船頭の青い法被に着替えて竿を構えて準備万端だ。そして彼女は僕たちに意気揚々と告げる。


「さーて、では楽しい川下りデス! 皆さん、準備はいいデスか?」

「うん、ライフジャケットはないけど何とかなるかな」


 本来こういうのは安全に配慮してライフジャケットを着たほうがいいけど、ナビ子ちゃんならヘマはしないだろう。僕らは全てを彼女に委ねて大自然のアクティビティを楽しむ事にしたのだった。


「キャッホーイ!」


 そして渡し舟は球磨川の激流を進みそのスリリングな娯楽につるぎちゃんは歓声を上げた。他の皆も何だかんだで楽しんでいるみたいだ。


「櫓三年に竿八年なんて言いますけど、ナビ子ちゃんは本当に何でも出来るんですね~」

「ふっふっふ、最先端のロボットなワタシには竿の扱い方もインストールされているのデス!」


 うみちゃんの賞賛に、ナビ子ちゃんはドヤ顔でそんなツッコミどころ満載な返しをしたのでヒロは呆れてしまった。


「作った奴もどういう心境でそんな超アナログなプログラムを仕込んだのかねぇ。本当に製作者おやの顔が見てみたいよ」

「わぷっ、冷たっ!」


 光姫ちゃんはビシャンとはねた川の水をもろにくらってガッツリ濡れてしまう。今は秋だしかなり寒そうだ。だけどナビ子ちゃんは笑顔でこう返す。


「よかよか、球磨川の水は長命のご利益があるばい! お客さんはラッキーばい!」

「なんで急にエセ熊本弁になったんダ。ん?」


 だけど光姫ちゃんはある事に気が付く。


 彼女の視線の先では舟に入ってしまった川魚がいてピチピチと暴れていた。おそらく先ほどのしぶきで水と一緒に飛んできたのだろう。ナビ子ちゃんはそれを見てひどく興奮してしまう。


「こいつはラッキーデス! ちょっと痩せていますがなかなか美味しそうなアユデスね! バケツとかはあります?」

「いやない。釣りをするつもりじゃなかったからな」


 だけどヒロにそう返されナビ子ちゃんはむう、とした顔になってしまう。けれどすぐに代替案を見つけたらしくにぱ、と笑顔を浮かべた。


「バケツが無ければこの舟を入れものにします! 少しばかり魚臭くなりますが我慢してください!」

「わー!?」


 バシャバシャバシャ!


 ナビ子ちゃんは竿を巧みに使い泳いでいたアユを舟の上に放り投げる。それはベテランの船頭さんでも身に着ける事が出来るはずがない神業であり、さながらサケを掴み取るクマのようだった。


 すぐに船はアユで一杯になりこれでもかとピチピチとはねている。たくさん獲った彼女は満足げに微笑むと、


「新鮮なうちに運ばなければ! ぬららららー!」


 と、竿を激しく動かしなんと球磨川の激流を猛スピードで上ったのだ。川上りなんておそらく人類は誰も経験した事がないアクティビティだろう。


 その時のナビ子ちゃんの顔は劇画風でなかなかに暑苦しかった。少しでも美味しくアユをいただこうと腕を振り回す姿はなんだか格闘漫画のキャラクターみたいで、きっと主人公の宿敵になる事が出来るだろう。


「わー、すごいですねー!」

「いやいや物理的にあり得ないダロ!? 今どういう状況よコレ!?」


 うみちゃんはただただ感動していたが、良識のある光姫ちゃんはツッコまずにはいられなかった様だ。そんな彼女に僕は諭すように言った。


「光姫ちゃん、諦めて。ナビ子ちゃんはこういう子だから。食べ物が絡むと宇宙の法則と世界観ァンをぶっ壊すんだよ」

「そういうこった」

「お、おう……」


 つるぎちゃんからもそう言われ彼女は黙りこくってしまう。そして数秒後にはやっぱりこの状況を受け入れてしまったのだった。

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