4-18 大吉市で記憶を探す旅
天女伝説の真実を知った翌日、どこか陰鬱な僕の気持ちとは対照的に空はとても晴れやかだった。
僕らは皆で大吉市内を散策しナビ子ちゃんに関わる記憶を探す事になる。と言ってもそれは建前で実際はただの観光だけどね。
現在は木造の古い建物が立ち並ぶエリアを歩き周囲の風景を眺めていた。日本の建築技術は大したもので面影を残す程度に一部は残っていたけれど、やっぱり随所に倒壊した建物が見受けられる。
「噂には聞いていましたが大吉市はとても風光明媚な場所なんですねー。どこか白倉と雰囲気も似ています。折角なら廃墟になる前の姿が見たかったですけど、これはこれでありですね」
パシャ。上機嫌のうみちゃんはツタが生い茂った家屋をスマホで撮影し、早速思い出に残す事にしたようだ。
「山口さんもそんなブスっとした顔をしないで、もうちょっと楽しみましょうよー」
「これが普通ダ。うみちゃんは適応力が高すぎるんじゃネ。いつ帰れるかわからないシ、化け物がいるかもしれないのニ」
光姫ちゃんはやや呆れつつもそんな締まりのない先生のおかげで表情が柔らかくなる。そんな余裕が出たからか彼女は興味を引くものを発見したようだ。
「お、キツネがいる」
「?」
彼女の視界の先にはもふもふした可愛らしいキツネがいてぞろぞろと現れた珍客にキョトンとしているらしい。だけどその時ふとナビ子ちゃんはポツリとこんな事を言った。
「時に光姫さん。中国ではキツネも食べると聞きますが、美味しいのデスか?」
「ああ、まあそこまで美味い物じゃねぇそうだけどナ。あたしは食った事ないケド、合い挽きミンチでかさましをすればどうにか食えるらしいゾ」
「!」
良からぬ気配を察知したキツネは即座に逃げ出す。それを見て光姫ちゃんはあーあ、とガッカリそうな顔になってしまった。
「お前のせいで逃げられたじゃねぇカ。ちょっともふりたかったのに」
「ごめんなさいデス……」
「エキノコックスに感染する恐れもあるので、どのみちやめたほうがいいと思いますよー」
シュンとするナビ子ちゃんにそう言ったうみちゃんの腕には数匹のヒバリが止まっていて仲良く触れ合っていた。彼女は人間だけでなく動物とも仲良く出来るようだ。
「今のうみちゃんの状況、どっかで見た気がするなあ」
つるぎちゃんの疑問にヒロはうーん、と考えこむ。僕もどっかでこういうシチュエーションを見たような。
「あれだ、何か山奥にいるエルフとか、神様とかあんなんじゃねぇの」
「ああそれ」
僕は手をポン、と叩き納得する。今のうみちゃんはまるで清い心を持った泉の女神のようだ。きっと鉄の斧を落として正直に答えれば銀の斧と金の斧を貰えるのだろう。
「うーん……」
「?」
そのたとえは満場一致の答えだったけど、ナビ子ちゃんはまだ考え事をしているみたいでうんうんと思いを巡らせている。きっと彼女は別の事を考えているはずだ。
それは何なのか僕には予想が出来る。おそるおそる僕は問いただした。
「昔の事、思い出せそう?」
「いえ」
ナビ子ちゃんは首を小さく横に振ってまだ思考を続ける。僕はその答えにどちらかというと安心してしまった事が少しだけ悲しかった。