4-13 肉じゃがと大地に捧げるダンス
さて、そんなこんなで僕は今肉じゃがを作っているわけで。元々バスにあった野菜と牛肉的なもの、入手したばかりの醤油を使って、借りたカセットコンロを使いコトコトとのんびり煮込んでいた。
「まだデスか! デスか!」
「焦らない焦らない」
ナビ子ちゃんはうずうずと悶え肉じゃがの完成を今か今かと待っている。僕の料理を楽しみにしてくれるのは嬉しいけどこればかりは待つ以外にほかない。
「ではせめて美味しくなるように大地に捧げるダンスを! ハァ~ズンドコズンドコ!」
「じっとしてなよ」
食べ物が関わるとナビ子ちゃんが奇行をするのはいつもの事だけど今回は飛び切りだ。お客さんがいるというのにお構いなしである。
「ハァ~豊作じゃ~! アイヤサッホー!」
「こいつは何をしているんダ?」
「慣れてください」
山口さんは呆れていたけど海野先生は違った。微笑んでいた彼女はすくっと立ち上がり踊りの構えをとる。
「何だか楽しそうですね! では私も! ドゥドゥホー!」
「おお! ではアイヤサッホー!」
「ドゥドゥホー!」
「「ウーラーハッハー!」」
「ええ……なにこれ?」
そして二人は一緒に大地に捧げるダンスを踊り始めた。まともな人に見えたけどどうやら海野先生もあちら側の住人だったらしい。
「折角だしつるぎも踊るか?」
「嫌だよ」
ヒロたちは苦笑しながらその奇妙な光景を眺める。僕はどうすればいいのか対応に困ったけれど、取りあえず笑って考える事を放棄し、時折かき混ぜつつ無心で鍋を眺め続けた。
ともかく祈りの甲斐もあって肉じゃがは上手に完成した。ナビ子ちゃんはよだれをだらだらと垂らし、鍋の中の肉じゃがに釘付けになってしまう。
「ああ、肉じゃがデス! 日本の家庭料理のトップに君臨する、肉じゃがデス!」
「たくさん作ったからしっかり食べてね」
「おーう」
「それじゃあ、いただきまーす!」
「ああ」
「はい~」
早速僕らはおたまでとりわけ、みんなで肉じゃがを食べ始めた。
しっかり煮込まれたじゃがいもは箸で簡単に崩れるほど柔らかく、美味しそうな湯気を立ち上らせている。
口に入れてすぐ、じゃがいものホクホクの食感に他の野菜や肉、それに醤油の旨味がしっかり染み込んだその味に僕はめまいがしそうになってしまった。
ああ、何て美味しいんだ。この味を僕はずっと求めていた。やっぱり日本人には醤油が必要だね!
甘く煮込まれたにんじんも、ジューシーな牛肉的なものも、すべては醤油によって至極の料理に変わっている。本当に醤油は素晴らしい。
「嗚呼、これが肉じゃが、ジャパニーズお袋の味!」
「肉じゃがを食ってるリアクションじゃねぇヨ。二十年ぶりにムショから出て焼き肉を食いながらビールを飲んだ奴のリアクションだゾ」
「それくらい美味しいですけどねー。みのりちゃんは本当に料理が上手なんですね」
「ありがとうございます」
泣きながら喜ぶナビ子ちゃんのノリに、山口さんは上手くついていけないようだったけどあまり触れる事なく受け流してくれた。ナビ子ちゃんの過剰なリアクションには僕も時々困るからなあ。
「ああ、オカーン! 大好きデス!」
「わわ、食事中に抱き着かないで」
感極まったナビ子ちゃんは僕に突如として抱き着く。おかげで料理が上手く食べれず、正直ちょっと迷惑だし、それに何より恥ずかしいからやめてほしかった。
「オカーン!」
「おいヒロやめろ。また白い目を向けられたいのか」
「すまん、どうしようもなくバブミに飢えていたんだ」
何だか悪ノリしたヒロがつるぎちゃんに首根っこを掴まれていたけれど僕は無視をする。ああもう、これじゃあゆっくりごはんが食べられないよ。
でもすごく楽しいなあ。いっつもナビ子ちゃんと二人っきりだけど、こういう賑やかな食卓も案外悪くないかもね。