4-12 お醤油ゲトー
とまあ、そんなこんなで僕たちはバスに戻って、車内でヒロのお土産のコーヒーを飲んでいたわけだけど。
(これがコーヒーかあ……意外とそうでもないかな)
向こうの世界でコーヒーを飲んだ事はもちろんあるけど、久々のその味を僕は正直そこまで美味しいとは思わなかった。
いや、悪くはないけどずっとたんぽぽコーヒーやハーブティーに慣れたから味覚が変わったのかな。でも貴重な食糧だしありがたく貰っておこう。
「それにしても、本当にここは並行世界なんですねー」
「厳密には並行世界は仮説ですけどね。けど驚いたでしょう?」
秘密基地に案内したかのように、どこか自慢げにヒロは海野先生にそう告げる。だけど本当に全然この人は狼狽えていないなあ。
「……正直アタシは信じてなかったけどナ。ごめん、つるぎ」
「ごめんって?」
「お前は昔の友達を助けようと必死だったのに信じてあげる事が出来なくて。この間の事も誤解しちゃっタシ……」
山口さんはしょんぼりしながらそう謝罪をすると、つるぎちゃんは何を思ったのか彼女に抱き着いた。
「ふぎゃ!?」
「ああもう可愛いなあ光姫は!」
「あにゅにゅにゅ、くすぐったいヨ!」
と、まあこんな風に見ていて恥ずかしくなるくらい激しめのスキンシップをして二人はじゃれ合った。僕にはこんなの出来ないからちょっと羨ましくもあるなあ。
「ハッハッハ、じゃあ俺もいろんなところをナデナデしてやろう」
だけどヒロが調子にそんな事を言って山口さんに接近したので、みんなは一斉に引いた表情になってしまった。
「え、最低」
「死ネ。誰か警察を呼んでクレ」
「ブタ箱に入っても、先生はずっとあなたの帰りを待っていますからね?」
「それはロボットの視点から見てもどうかと思うデス」
「うわあ。ヒロ、うわあ。君は変態なんだね」
「冗談だったのに、グスン」
女性陣から猛バッシングを浴びたヒロは意気消沈し大人しくなってしまう。本当に彼は昔とは大違いだった。
ほんのり気まずくなり針のむしろに包まれたヒロはちまちまダメージを受けている。仕方ない、幼馴染の僕が助けないと。
「と、ところで僕たちはそろそろ夕飯にする予定だったけどヒロたちはどうする? さっき食べちゃったけど」
「あ、ああ。軽めのなら食べれるぞ」
僕たちは二人でどうにかなかった事にしようと頑張る。だけどその言葉にナビ子ちゃんが真っ先に食いついた。
「それならば先ほどのお醤油で一品作ってみましょう! ワタシはどうしても食べたいものがあるのデス!」
「そう? わかったよ」
本当にナビ子ちゃんは単純だ。口に出すと喧嘩になるから言わないけどさ。まあおかげで空気を変える突破口は出来たし感謝しよう。