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1-8 放置されたバスと終末だらずチャンネル

 そして僕たちは梨の歴史館の駐車場に放置されたバスの前にやって来た。


 車は町の随所にあったけれど、どれもが錆びつき長い年月でスクラップ同然になって草木に侵食されていた。だけどこのバスだけはなぜだか綺麗に手入れされている。もちろん塗装ははがれあちこち錆びついてはいるけれど。


「高性能なソーラーパネルのおかげでガソリンいらずデスよ。なかなかキュートでしょう?」


 しかもそのバスは前方にしっかりとした装甲が取り付けられている。それはまるで剣のようで突撃すれば相当な破壊力を生み出すだろう。屋根の上にあるソーラーパネルが霞むほどそれはかなり威圧感を与えていた。


 本当に昔この世界では何があったのだろう。こんな装甲車のような装備をバスに取り付けて。


「随分としっかりしているけど、もしかしてナビ子ちゃんが?」

「はい、コツコツとお手入れしていました。よくわかりませんがそうしないといけない気がしたので。きっとこれはワタシの無くした記憶に関係していると思われます」


 ナビ子ちゃんはバスに愛おしそうに触れて物質に宿った想いを感じようとしていた。けれどもちろん何もわからない。


 辛うじてはがれていないバスの塗装を見ると元々はなにかの絵が描かれていたらしい。さすがに数百年の歳月で判別する事は出来なくなってしまったけれど。


 そして僕は文字が書かれている部分を発見し、それを口にした。


「終末だらずチャンネル?」


 ――終末だらずチャンネル。不鮮明だったけれど多分こう読むのだろう。


「車内には動画を撮影するために使っていた機材もあります。きっとこのバスの持ち主の方は動画を撮影していたんでしょうね」

「へぇー」


 ナビ子ちゃんはバスの扉を手動で開け車内に入ったので僕も中に入ってみる。彼女が手入れをしてくれたおかげで中の物は比較的劣化していなかった。


「世界が滅んだのにどうやって動画を投稿したんだろうね。そのころは電気とか通信網は生きていたのかな。サーバーとか電波塔とか駄目になりそうなものだけど」

「本当デスよねー、ああ、なんかよくわかりませんが動画は投稿出来ますよ。なぜか閲覧は出来ませんが」

「え? なんでまた」


 それは本来なら有り得ない事だ。長い年月はあらゆるものを朽ち果てさせるはずなのに。ましてや全世界が停電中だろうし僕にはさっぱり理解出来なかった。


「さあ、なんででしょうね?」


 この世界で暮らしている時間が長いナビ子ちゃんですらも僕と同じように首をかしげてしまう。なら、僕にその理由がわかるはずがなかった。


「折角なので動画を投稿してみますか? 機材は一応使えますよ」

「うーん、遠慮しておくよ」


 僕は取りあえずそう断った。どうせ誰も見る人なんていないだろうけど、僕は単純にそういう事がしたくなかったんだ。だってそんな事は前の世界で嫌になるほどしてきたからね。


「でも数百年経っても使えるなんてすごいもの持ちがいいね」

「ええ。なのでどうせなら使ってあげたいんですけどね、同じ機械として。それとワタシは多分、このバスに乗って何かをしていたんだと思います」


 ナビ子ちゃんが切なそうにそう言ったあと、突如としてバスのエンジン音が聞こえたので僕はひどく驚いてしまった。


「え? こ、これって」

「どうやらワタシはこのバスを遠隔操作出来るみたいデス」

「す、すごいね。でもそれはつまり、ナビ子ちゃんと終末だらずチャンネル? は関係があるのかな」

「はい、おそらくは」


 困惑しつつも僕は少し考えこむ。ならば動画を投稿すれば何かを思い出すかもしれない。


 けれど僕はそういう事に対して抵抗がある。だからその踏ん切りがつかなかった。


「ワタシはこのバスに記憶のヒントがあると思います。そして日本のあちこちにある記憶を辿るためにこの車をメンテナンスもする必要があるので、あれやこれや準備しないといけません。みのりさん、手伝ってくれますか?」

「うん、いいよ」


 僕は二つ返事で快諾する。動画の投稿は作業をしている間に立ち消えになってくれたのでそこだけはよかった。


 けれどそれでいいのかな。僕の心の中にはほんのりとしこりが残ってしまった。

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