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4-11 大吉市にて、ヒロたちと合流

 お互い葛藤を抱えながらも僕らは大吉市の地に足を踏み入れた。僕らは取りあえず廃墟の旅館を活動の拠点にする事に決めて駐車場にバスを停める。


「いやー、ジャパニーズワビサビがファンタスティックワンダホーデスネー」

「外国人旅行客のつもり? 素直にオンボロって言いなよ。オバケが出そうだなあ」


 昔はそれなりに立派だったんだろうけど旅館はもちろん経年劣化であちこち壊れている。これをワビサビと言うのはいささか無理があるだろう。


「オバケデスかー。ワタシのレーザーブレードで斬れますかね?」

「ナビ子ちゃんは幽霊が怖くないんだね」

「というか普段いっつも変な怪物と戦っていますし、今更デス。あんなのふわふわしてるだけデスし、それに食べてみれば意外と美味しいかもしれません。焼いたら大抵のものは食べれるんデス」

「はは、かもね」


 ナビ子ちゃんはそんな冗談を言ったので僕は笑い飛ばしたけど、これ冗談だよね、本当に。ナビ子ちゃんならオバケでも食べかねないけどさ。


「きゅ~!」

「え」


 だけど旅館から白い三角の頭巾を被った丸っこい何かが急いで逃げ出すのを視界の片隅にとらえてしまい、僕は思わず二度見をしてしまう。


 うん、あれはただの見間違いだよ、僕は何も見なかった、うん。


「ま、オバケはともかく建物の中に入るのは危険だし、使うのは駐車場と屋外のものだけにしておこうか」

「はい! あ、露天風呂とかありますかね? 撮影のために特別にタオルの着用を許可してもいいので、みのりさん、ここは一つ、」

「やらないからね?」

「ちぇー」


 良からぬ事を企んだナビ子ちゃんに釘を刺し、僕たちは身支度を整え周囲の探索を開始する。でも露天風呂はいいかもなあ。



 それで僕たちは市街地エリアに行ったわけだけど。


「ふう~。廃墟で食う牛骨ラーメンは美味いね~」

「なあ、つるぎ。どうしてお前はこの状況をすんなり受け入れて呑気にメシを食っているんダ?」

「パニックになるよりかはいいですけど。御門君の話だとそのうち元の世界に戻れるんですよね」

「ええ、まあ。なので俺らも取りあえず腹ごしらえしましょうや」


 何故か路上で当たり前のようにカップ麺を食べている四人組を発見し、僕はかなり困惑してしまう。


 お湯はキャンプで使うようなコンロを使い鍋で沸かしているみたいだけど、便利そうだしちょっと欲しいな。


「わー、ヒロさん、つるぎさん、お久しぶりデス!」

「ああ。ようやく会えたな」


 そんな僕をよそに、ナビ子ちゃんはご主人様が家に帰宅して喜ぶ子犬みたいに駆け寄った。


「おふ、ほんちゃーす」


 二度目ともなると慣れたものでお互いそこまで驚く事はない。つるぎちゃんなんかラーメンを食べながら返事をしてるし。


「あ、私は初めましてでしょうか。御門君たちのクラスの担任の海野英理子って言います」

「真壁家の居候の山口光姫ダヨ。お前らがナビ子とみのりカ」

「はい、初めまして、ナビ子デス!」

「は、はい、えと、鈴木みのりです」


 見知らぬ人間が二人も現れ僕は少なからず怯えていた。きっと引きこもりが十年ぶりに外に出たらこんな反応をしてしまうのだろう。


 特に山口さんは気が強そうでなんか怖そうだし。でもつるぎちゃんのところの居候ってどういう事なんだろう?


「ほほう、それにしてもカップ麺デスか。こちらの世界ではもう食べる事が出来ないものデスが、もしや今回は事前に準備しましたか?」

「ああ、あの時の缶コーヒーもそうだけど、どうやら事前に装備とかをしていれば向こうのものを持ってくる事も出来るみたいだ。また行き倒れの危機になるのはごめんだからな」


 ヒロはそう言って自慢げに大きなリュックを見せた。中にはサバイバルに必要なアイテムが色々詰まっているのだろう。


「ところで、ひょっとしてワタシたちの分もあったり?」

「悪い、カップ麺はない。だがお土産は色々用意しておいたぞ。醤油とか」

「わほー!」


 ヒロがリュックから出したボトル入りの醤油にナビ子ちゃんは奇声の様な歓喜の声をあげる。だけどこれは僕もすごく嬉しかった。


「ありがとう、ヒロ。ずっと醤油が恋しくてね。早速今日の晩ごはんで使うよ」

「ああ、どういたしまして。あとこれは梨の歴史館のお土産だ」

「おお、何だか久しぶりに〇ッシーの顔を見たよ」


 ありがたい事にヒロはスイーツも用意してくれていた。パッケージにゆるいキャラが描かれたそのお土産は梨の大福のようで、この世界では入手しにくいからとても嬉しい。


「あとついでにおまけでついてきた〇ッシーのストラップも」

「それはいらないかな。世界が滅んでなくても」

「だよな。けど受け取れ。ナビ子、いるよな」

「あ、はい、では取りあえず」


 ヒロは安物のストラップを無理やり押し付ける。梨の歴史館のマスコットである、梨に顔を描いて手足をつけただけの手抜きデザインの〇ッシーは、やっぱりいつ見ても何だか絶妙にイラっとするね。


 挨拶が済んだところで僕は改めて新顔の二人の顔を見比べる。どちらもタイプは違うけど可愛い女の子だ。海野先生は子、という歳でもないだろうけど。


「でも、また女の子を連れてきて。ヒロは男の子の友達がいないの?」

「うみちゃんは先生だし、光姫は友達って程仲良しじゃないが、まあいない事は……いないなあ。相変わらず俺はボッチ族だよ。人付き合いは狭く深くがポリシーでね」


 ヒロはハハ、と苦笑し他の人も相槌を打つように笑う。だけど性別に関わらず仲良しなのはいい事だろう。


「お外でキャンプもいいデスが取りあえずワタシたちの拠点のバスに来ませんか? 積もる話はそこでじっくりしっぽりねっとり聞きましょう」

「そうですねー、しっぽりねっとりとした話題はないですけど」


 海野先生はのほほんとした表情で全くこの状況に怯えている様子はない。優しそうだし、この先生となら僕でも仲良く出来るかも。


 何にしたってまずはここを離れよう。運が悪ければ変な怪物とエンカウントする事もあるだろうし。

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