4-6 戦禍の名残
さあ、まずは港沿いにある大型の施設を見てみよう。多分ここにはショッピングモールでもあったんだろうけど、やっぱり一番目を引くのは無駄に大きな観覧車だろう。
「ほへー、観覧車デス。動いていませんけど」
「そりゃまあそうだろうね。停電中だし」
「どうにか動かして乗ってみますか? ゴンドラがいくつか落ちてますけど」
「高いところに行って、地上を経由したあとそのまま天国に行きそうだからやめておくよ」
ちょっと乗りたいとは思ったけどね。施設のトレードマークだった、元々は海のような青さが美しかったであろう観覧車も、やっぱり全体的に錆びついていてただのモニュメントとなっていた。
でもこれはこれで風情はある。ナビ子ちゃんはしっかりと撮影した後、その場を離れた。
施設の外壁に描かれた大きくて可愛いクジラの絵に挨拶をして、僕らはLEDランタンの灯りを頼りに暗い建物内部をうろついてみる。
思ったとおりやっぱりここはショッピングモールだったみたい。パープルシティとは比べ物にならないくらい品ぞろえが豊富で閉店したというのに僕は目移りしてしまった。
「ふふ、お買い物でも楽しんでみますか?」
「そうだねー、日常生活で使えそうなものはないし、ウィンドウショッピングでいいや」
「そうデスか、どれもこれもアンティークものデスのに」
アンティーク、と言えばアンティークだろう。ここにあるのは全部数百年前のものだから。だけどそれはそれだけ劣化しているという意味でもあり、原形をとどめているものを見つける事自体が至難の業だった。
「でも、やっぱりここも……」
屋内の各地には壊れたバリケードが随所に見受けられ、ここでも人々が何かと戦っていた事がわかる。きっと世界が滅ぶ前は要塞になっていたのだろう。
血のような赤いペンキで壁に塗りたくられた文字を僕は照らす。滅、裁き、祖国防衛、皆殺、外国人、夷……やっぱりところどころかすれているけど、戦時中の標語のように物騒な事が書かれているのはなんとなくわかる。
「多分だけど、ここにいた人がどんな人と戦っていたのかわかる気がするよ」
「ええ、戦争は良くないデス」
「本当だね」
僕らは他人事のようにそう言って、それ以上文字を気に留める事無くその場を去った。
別の建物に入った僕たちはこれまた不思議なものを発見した。最初、その黄色い骨組みがなんなのか僕にはわからなかったけれど、どうやらここはアスレチック施設のようだった。
「おお、これはまた面白そうなアクティビティデス! そこに障害物があるのなら登らなければいけません! ほい、みのりさん、カメラを!」
「え、ちょっと、危ないって!」
興奮したナビ子ちゃんは僕の制止を振り切りえっさほいさとアスレチックを登った。あちこちガタが来ていつ壊れてもおかしくないし、危ないのはもちろんなんだけど、一番の問題はそこではない。
「ナビ子ちゃん、パンツ見えてるから!」
「え、にゃー!」
ナビ子ちゃんは慌ててバック転をしアスレチックの上層から飛び降りる。彼女は猫が樹から落ちた時のように、綺麗に空中で姿勢を反転させ地面に着地したのだった。
「おおー」
「も、もう、後で編集してカットしませんと」
「アクセス数は稼げそうだけどね」
普段と立場が逆転したと思い込んでしまった僕はここぞとばかりにからかってみる。だけどナビ子ちゃんはムッとして、こんな提案をしてきた。
「そうデスかー、お色気は大事デスからね。ではみのりさん、次の動画は水着でギターを弾いてもらいます。アクセス数を稼ぐのに必死になって血迷った動画主がするみたいに」
「ごめん、それだけは勘弁して」
うう、ナビ子ちゃん、ちょっと怒ってる。でもいっつも彼女は僕にセクハラまがいの事をするのに、何だか理不尽な気がするのは気のせいかな。