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4-5 滅亡した修羅の国

 さて、工業地帯を抜けた所で福岡観光第二弾だ。


 今度は県庁所在地があった場所に向かい、興味深そうに廃墟の大都会を眺める僕の横顔をナビ子ちゃんはカメラでしっかり撮影してくれる。


「ここが修羅の国の王都デスかー。モヒカンのヒャッハーさんはいないのでしょうか」

「今も昔もいないからね」

「むう。では一家に一台ロケットランチャーというのは」

「それもないって」


 福岡を庇うために僕はナビ子ちゃんの偏見にまみれた疑問を笑い飛ばすけど、彼女はどうにも不満げな顔になってしまう。


「つまらんデス! ここはやらせでもいいのでなんか置いておきましょう!」

「それをして許されるのは探検隊か脱力なニュース番組だけだよ」

「福岡がこんなに平和なわけないデス! ひ○こ饅頭が東京土産と言った人間や、コンビニで肉まんに酢醤油をつけなかった店員、柔らかいうどんが正義とされるのに讃岐うどんを推す人間、福岡県民を名乗りながらに○かせんぺいをに○かせんべいと言った人間、そしてキュウリを食べる人間は、福岡県発祥のパンチパーマをした方にぼてくりこかされて夜中にゴミ出しされてしまうのデス!」

「よくもまあそんなにすらすらと福岡のネタが思いつくね。本当にナビ子ちゃんは記憶喪失なの?」


 その解説が僕も全部はわからなかった。何でキュウリを食べたら駄目なのかな? そういう風習でもあるのだろうか。


「気を付けてください! もしかしたらどこかに浜辺で九州を一人で護るに○かせんぺいのマスクをした男がいるかもしれません!」

「あの芸人崩れは宮崎出身だから大丈夫さ。ほら、この街はこんなにも平和……」


 だけど僕はそう言いかけて、前方になかなかヒャッハーなものを見つけてしまい笑顔が引きつってしまった。


「あれ何かな」

「ワタシには戦車に見えますね。朽ち果てていますが」


 ナビ子ちゃんもそれをがっつりカメラで撮影しほほー、と満足そうな顔になるけど、僕は無性に腹が立ってしまった。


 やっぱりあんのかよ! 僕が折角フォローしてやったのに!


 でも小さな花がいくつも咲き誇ったその戦車は見ていると何だか幸せな気持ちになってしまい、この世界が平和なんだと実感してしまう。それは人がいなくなったからこそもたらされた平和なのだろうけどさ。


「ここで、昔戦争でもあったのかな」

「おそらく。よく見ればあちこちに銃撃の跡やバリケードの残骸もありますね」


 ナビ子ちゃんは近くのコンビニの跡地に入るとそこは武器の保管場所になっていて、錆びついた手榴弾やアサルトライフルがたくさん放置されていた。やっぱりここが戦場になった事は疑いようのない事実なのだろう。


「さすが修羅の国、と言いたいけどこれはここだけなのかな。それとも日本中で、いや世界中で誰かが何者かと戦っていたのかな」

「どうなんでしょうねぇ」


 旅をしていると時々こういうものを見かけてしまう。昔広島を旅した時にもこんなのがあったっけ。その戦っていた相手はきっと人間なんだろうけどさ。


「本当に、この世界で昔何があったのかな」


 僕はうーん、と少し考えこんだけど、


「ま、別にどうでもいっか」


 と、思考する事を放棄してしまう。それは観光する事や美味しいごはんを食べる事よりも重要ではないのだから。


「そうデスねー。面白そうな場所がたくさんあるので早速見て回りましょう!」

「そだね」


 僕は過ちを犯した人間の事なんて気にも留めず平和になった街を探索する。動植物の住処となった大都会は生命の息吹に満ちあふれ、まさしく楽園と呼ぶにふさわしい場所だった。


 地球環境を護ろう、なんて昔は声高に叫ばれていたけれど、結局一番環境にいいのは人間がいなくなる事である。


 これもすべては人間が滅亡した事によってもたらされた平穏だ。やっぱり人間なんて別に世界は必要としていないんだろうな。

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