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4-3 赤錆の廃城

 水の橋を渡り、福岡の大地に降り立った僕らはまずは周辺の工場の探索を始める。


 ここを中心とした工業地帯は日本でも屈指の規模を誇り、戦後の高度経済成長期になくてはならない場所だった。人々の情熱とコークスでドロドロに溶けた灼熱の鉄は文明に必要なあらゆるものを生み出し日本の復興を支え、そして福岡という場所を九州の盟主に押し上げたのだ。


 けれど赤錆の廃城となってしまった工場からはあの頃の轟音はもう聞こえない。屋根は壊れて温かな日の光が差し込み、鉄の屍に慈愛を注いでいた。


 チッチッ、とさえずる声が聞こえ僕はふと見上げると、機械のふちのあたりに小鳥が止まっていた。


 雨ざらしになっていたため機械はすっかり錆びついてしまい役目を終えた鉄くずと成り果ててしまっているけど、彼らが運んできた種子から発芽した草花はマイホームを彩り羨ましいほどにとても素敵なお屋敷になっていたのだ。


「鉄錆や修羅の国も夢の跡、デスねー」

「何で俳句風にしたの?」


 そんな廃工場をカメラを持ったナビ子ちゃんは楽しそうにずんずんと進む。気分は廃墟探索をするマニアだ。


 世の中には廃墟マニアという人種がいるのは知っていたけれど、僕はその良さがよくわからなかった。でも最近になってああいうものの魅力がわかってきたよ。


 僕は美術館を歩くように、芸術作品となった機械を眺める。


 多くの作業員がサウナのような熱気の中汗水を垂らして働いている姿を想像した後、今の変わり果てた姿を目の当たりにすれば人間は誰しも魂を揺さぶられるだろう。


 ああ、絶望とはどうしてかくも美しいのだ。時の流れという圧倒的な力の前に文明は無力なのである。僕はここに来て改めてそれを実感してしまった。


 カツ、カツ、カツ。工場の鋼鉄の床に楽し気な二人分の足音が響く。


「ううむ、やっぱり工場ってなんかいいデス! 実家に帰った気分デス!」

「へー、やっぱりロボットだからかな」


 ルンタッタ、ルンタッタとナビ子ちゃんは小躍りしながらはしゃいでいた。ロボットの感覚はわからないけれど楽しそうでなによりだ。


「もう移動するには遅いデスから今日はここで過ごしましょう。それにこんな映えスポットで撮影しないのはもったいないデス!」

「確かにそうだね。でも、どんな撮影をするの?」


 ネタを出す事が苦手な僕らの動画は基本的に廃墟の風景を撮影するか、歌を歌うかの二種類しかない。時々料理や釣りとかもしてるけどね。


 だけどナビ子ちゃんはその問いかけに不敵な笑みをしてしまう。


「ええ、一応考えはありますよ。確かみのりさんはミュージカルの経験があるんデスよね」

「あるけど」

「まあ、夜を楽しみにして下さい」

「ああそう?」


 少し嫌な予感がしたけれど僕はロケを続行する。朽ち果てた機械はどれも見ごたえがあり、僕はついつい夢中になってナビ子ちゃんの悪だくみの事なんてすっかり忘れてしまった。

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