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4-2 関門海峡でヒャッハー

 僕たちを乗せたバスは山口県の西部まで移動し、昼過ぎに関門海峡に辿り着いた。目指すは九州地方、意気揚々とやって来たはいいものの……。


「うーむ、まあ予想はしていましたが」

「どうしよっか」


 バスから降りた僕たちは周囲を調べていたわけだけど、目の前には長い年月で崩落した橋とトンネルの残骸があり、とてもではないが通行出来るようには見えなかった。だけど本州から九州に向かうにはどうやっても海を渡る以外に方法はない。


「小豆島の時みたいにイカダでも作って海を渡るのは」

「あれは日帰り旅行が出来る程度にちっちゃい島でしたが、さすがに九州は無理デス。ワタシ一人だけなら身一つでも大丈夫ではありますが、人間のみのりさんには生命維持に必要なものがたくさん必要デス」

「だよねぇ」


 僕がお荷物、という直接的な表現を決して使う事無くナビ子ちゃんは優しくそう説明してくれる。だけどもちろん自分が足手まといなのはわかっているしそれが申しわけなかった。


 考えてみれば僕、何でも出来るナビ子ちゃんの役に立った事なんて一つもないんだよね……。


「すべてを現地調達するという選択肢もありますし、それはそれで楽しいサバイバルキャンプになりそうデスが、ゆとりプレイを目指すのなら出来ればバスは持っていきたいデスね」

「と言ってもそれは無理だし……」


 バスには空中を浮遊する装置が付いていてこれがあれば海上も移動出来るそうだけど、すでに壊れてしまったと以前彼女が話していた。もちろん直す方法なんてわからないし、不便を覚悟して妥協するしかないのかな。


 だけど僕らがうんうんと悩んでいた時、


「ちゅるるー!」


 と、聞き覚えのある可愛い声が聞こえのだ。声のした方向に視線を向けると緑色の球体があり、それは言うまでもなく数日前に出会ったタコの神様だった。


「あれ、タコの神様、どうしてここに?」

「はて、忘れ物でも届けに来てくれたのデスか?」

「ちゅるるー!」


 僕らは不思議に思っていたけど、その時タコの神様が水面をぺちんと叩き、とんでもない事が起こってしまう。


 ズゴゴゴゴ!


「わわ!?」

「デス!?」


 なんと海面が上昇し水は足場に変化してしまった。足場は波打って、よく見ると中で魚も泳いでいるけれど少なくともこれは科学的な力によるものではないだろう。


「も、もしや」


 ナビ子ちゃんは海に近付き、恐る恐るその水面を右足で踏みつけ、感触を確かめてから左足もつけた。だけど彼女は海に落ちる事無く海面に立ったままだ。


「へえ、すごいね」


 僕は驚きつつも真似をして海の上に立ってみる。まるで田んぼの中にいるみたいで、何とも言えないねっとりとした感触が気持ちよかった。


「ありがとうございます! これで海を渡れますよ!」

「うん、ありがとうね!」

「ちゅるる!」


 感謝の言葉を聞いて素敵な笑顔をしてくれたタコの神様は二本の足でブイサインを作り、また海の中に潜ってどこかに行ってしまった。


 予想外の展開だけどこれでバスに乗って海を渡れるから良かったよ。僕たちは早速バスに戻る事を即決したのだった。



 僕たちはサーフィンボードで波乗りをするようにバスで水の橋を駆けていく。激しい白波が立ち、なかなか爽快な気分だ。


「ヒャッハー! 飛ばすぜー、デス!」

「あはは、安全運転でね」


 ナビ子ちゃんは海の上を走るという未知の体験に大興奮で、奇声をあげ笑いながらバスで爆走する。


 でも橋の両サイドには何もなく落下した時の事を考えると結構怖かった。どうせなら欄干も作ってほしかったんだけど予算の都合で出来なかったのかな。


「それでナビ子ちゃん、次は熊本の大吉だいきち市に行けばいいんだよね」


 次なる目的地は熊本県の大吉市という場所だ。ナビ子ちゃんのメモリーにはその場所に関する情報が残されており、そこにはきっと彼女の思い出に関する何かがあるはずだろう。


「はいデス! でも折角九州に来たんですから、他にもいろいろと観光しましょう!」

「うん、そうだね」


 寄り道をする事になるけど大吉市に用事があるのはナビ子ちゃんだし、彼女がそれを望むなら僕には特に反対する理由はない。僕らはまだ見ぬ地への旅に胸を躍らせて九州へと向かったのだった。

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