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4-1 幸せな滅びゆく世界

 夢を、見ていた。


 それは、遠い昔の記憶。


 ガタン、ゴトン。


 バスを運転していたワタシは、バックミラー越しに車内で盛り上がる皆さんを見て思わず微笑んでしまいました。


 毎日美味しいごはんを食べて。


 くだらない事でバカ騒ぎをして。


 時には喧嘩もして。


 でも、すぐに仲直りして。


 だけど、そんな優しい日々はもう戻ってきません。


 それはとても大切な記憶だったはずなのに。


 もう、ワタシは皆さんの名前すら思い出せません。


 皆さんが物語を終えていなくなっても。


 ずっと、ずっと、ずっと。


 死ぬ事が許されないワタシは、暗い世界で独りぼっちでした。



 ――鈴木みのりの視点から――


 僕は誰かの夢を見ていた。けれど、どんな夢だったのかは思い出せない。


 それはとても幸せで、悲しい夢だった事はわかるけれど。


「……………」


 夜明けを告げる朝の光がバスの窓から差し込み、僕を夢の世界から現実世界に引き戻す。


 すぐ隣にはナビ子ちゃんが眠っていて、怯えた赤ん坊が母親を求めるように僕の右手を掴んでいた。


 とても綺麗な、一筋の涙を流して。


「どうして……独りにして……ワタシは……皆さんのいない世界で……」


 きっと優しい悪夢を彼女は見ているのだろう。


 僕は堪えきれず、彼女を抱きしめた。


「僕は何処にもいかないよ。僕はナビ子ちゃんを一人になんかしないから」


 その呪いのような優しい言葉は果たして正しかったのだろうか。けれどナビ子ちゃんは微かに安心したような顔になった。


 ナビ子ちゃんを独りぼっちにするものか。僕はようやくこの世界で護るべき本当の親友に出会う事が出来たんだ。


 でも、不意にヒロとつるぎちゃんの顔が思い浮かんでしまう。僕は無理やり二人のイメージを振り払い瞳を閉じた。


 嫌だ、どうしてこんな事を考えるんだ。僕はあんな世界の事なんて考えたくない。この幸せな滅びの世界の事だけを考えよう。


 僕はもう戻れないし、戻るつもりもない。この世界で滅ぶ事を喜んで受け入れよう。


 ここには死を看取ってくれる優しい天使と、安らかで穏やかな終焉があるのだから。


 だから、お願い、ヒロ、つるぎちゃん。


 僕は今が幸せなんだ。僕の幸せな世界を奪わないでよ……。


 僕はかつての親友に残酷な感情を抱いてしまった。そしてそんな自分が嫌になってしまう。


 二人は必死で僕を助けようとしてくれているのに。


 こんな自分勝手な僕の本性をナビ子ちゃんに知られたくない。僕は本当に弱くて卑怯な人間だから。


 ぎゅ。


 僕はナビ子ちゃんを強く抱きしめる。優しさなんてなく、壊しそうなほどに。


 だけど、彼女はそれを受け入れ薄っすらと目を開けて微笑んでくれた。そして何も言わず、静かな寝息を立てて安らかな眠りについたのだった。


 僕も全てを忘れて眠るとしよう。だってこんなに温かくて幸せなんだから、悲しい事を考える必要なんかないよね……?

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