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3-36 つるぎとホームレスの男の邂逅

 ――真壁つるぎの視点から――


 一方その頃、あたしはする事が無く取りあえず自宅で筋トレをしていた。矢○通のポスターが見守る中、ひたすらスクワットに精を出していると光姫は鬱陶しそうに尋ねる。


「なあつるぎ。お前は筋トレをしないと死ぬのカ?」

「そうだなー」


 同室で漫画を読んでくつろぐ彼女にあたしは気のない返事をしてしまう。今はとにかく身体を動かして何も考えたくなかったのだ。


「しっかしまあいるだけで筋肉がモリモリになりそうな部屋だナ。せめてアイドルとかのポスターを飾れヨ」

「矢○通は史上最強のプロレスラーだ。あたしにとってはアイドルっつうか神様みたいなもんだよ」


 プロレスラーの中には顔しか取り柄が無いヒョロヒョロなアイドル路線の奴もいるけど、あたしはそんな奴をプロレスラーと認めていない。プロレスラーは身体が大きくガッチリした体格の人間だけに限る。いや、まあ矢○通はどっちかっていうと、いやまごう事なきぽっちゃりでっぷりだけど。


「ふーん。んで結局あのモヤシ野郎とは何もなかったんだヨナ」

「だーかーら、何度も言わせるな」


 あたしはキレ気味にそう返す。あたしの事を慕っている光姫はこのように何度もしつこく確認をしてくるのでそれが鬱陶しくて仕方がなかった。


 本当にあたしとヒロはそんなんじゃないんだけどなあ。光姫はジト目でまだ疑っていたが不機嫌そうにこう言った。


「まあいいケド。んで、あいつ今何してるヨ」

「うみちゃんと一緒に図書館で古文書の解読をするとか言ってたな。脳筋のあたしにはとてもじゃないが何も出来ない。ま、一応ネットの情報を漁ってまとめておいたのを今度渡すつもりだけど」

「鈴木みのりの都市伝説カ。アタシもチラッとネットで見た事があるケド本気で信じてるのカ、つるぎは。まあ信じたい気持ちはわからないでもないケド」

「別に信じてもらわなくてもいいけどさ」


 ヒロと並行世界に行ったため音信不通になったのだと光姫にも事情は話したが、彼女は無理のある言い訳と考えあまり信じていない。それが普通の反応だしあたしもそれでいいと思っていた。


 並行世界の事はヒロとあたしだけが信じていればいい。別に、あたしたちはこの話を広めるつもりも協力者を増やすつもりもないのだし。


「でも進捗状況が気になるな。取りあえず電話してみるか」


 あたしは筋トレをやめてスマホを操作し、ヒロに電話をかけてみる。


『おかけになった電話は、電波が届かない場所にあるか、電源が入っていないため……』

「うん?」


 しかし無機質なガイダンスが流れあたしは固まってしまう。実際その可能性もあるけど、もしかすると。


「ちょっと出かけてくる!」

「え、あ、ちょっと!?」


 あいつは昨日もハエトリソウの怪物と戦ったらしいし、またヤバイ奴に絡まれているかもしれない。


 そう考えたあたしはすぐに身支度を整え部屋を飛び出した。まさかまた向こうの世界に行っていないといいんだけど。



 自宅を出たあたしはすぐに自転車で図書館に向かう。けど、すぐに光姫があたしの後を追ってきた事に気が付いた。


「光姫? 何で来たんだ!?」

「何か妙な香りがプンプンするからダヨ! あのクソ野郎としっぽりむふふなんてしたら困るからナ!」

「あんがとよ! そんな事はしないけどな!」


 頼もしい味方を引き連れあたしたちは市立図書館に突入する。


 けど、職員の人に煙たがれながら館内を駆けずり回って探したのにどこにもヒロとうみちゃんの姿はなかった。


「いないじゃないカ」

「うーん。じゃあ次は神社に行ってみるか」

「神社? そんなとこにいるのカ? まあ付き合うケド」


 向こうの世界に行ったのならば条件が同じ可能性もある。あたしは前回と同じく並行世界に迷い込んだ神社へと向かう事にした。


 だけど、そこには先客がいた。


「?」


 神社の境内の中央でホームレス風の男が缶コーヒーで一服している。別にホームレスの人が神社にいてもいいんだけどあたしはその男にただならぬものを感じた。


 あたしはそいつと目が合う。それはレスリングで野獣のような強敵と対峙してきたあたしですら臆してしまうほど鋭い眼光で思わず怯んでしまった。


「ッ!」


 男はズカズカとこちらに近付く。光姫は咄嗟にあたしの前に出て警戒心をあらわにするけど、横を通り過ぎると同時に彼は立ち止まり感情なくこう告げた。


「日常を護りたければ向こうの世界に関わるな」

「……………」


 呆気にとられるあたしを無視して男は去っていく。光姫は番犬のようにキッと男を睨みつけて、視界から消えたのを確認するとようやく安心したようだ。


「何だよアイツ。まあいいヤ、ここにモヤシ野郎がいるのカ」

「え、あ、ああ」


 光姫は野生の本能が鈍かったのもあるかもしれないが終始あたしを護ろうとしてくれた。それが嬉しかったけれど今はヒロたちの事だ。


「前はここで動画を見て並行世界に行ったんだけど……」


 だが動画サイトを開いても代わり映えのしない馬鹿馬鹿しい動画ばかりが挙げられている。光姫も画面をのぞき込み、胡乱な顔になってしまう。


「行かないじゃないカ、って」


 ザザッ!


 けれど彼女がそう言った直後、前触れもなく画面は乱れる。


 そしてあたしたちは何が起こったのか状況を理解する前に、再び意識が途切れてしまった。

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