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3-28 モブ村人(ピーコ)からの情報提供

 そんなわけで、俺は市立図書館で郷土にまつわる資料を漁っていた。


「うーむ」


 だが書かれているのはどれも代わり映えのしない内容ばかり。竹内文書のようなトンデモ展開はなくいたって普通の伝承しか載っていなかった。


 禁帯出の古そうな本も調べてみたが難解な言い回しであるだけでやはり同じ。俺の欲する情報は何処にもなかった。


 そもそも一般に知られていないような伝承は長い歴史で失われたか、あるいは時の権力者にとって都合が悪い事だったから抹消されたのだ。果たしてそのような文献が市立図書館如きに残っているのだろうか。


「ヒロ君めっけ」


 資料とにらめっこしていると何処からともなく可愛らしい声が聞こえる。遅れて自分の名前が呼ばれている事に気が付き顔を持ち上げた。


「ん、柴咲?」

「サボりは駄目だよ」


 柴咲は何故ここにいるのだろう。だが彼女がどこで何をしようと俺の知った事ではないか。俺は特に気にせず資料を読みながら彼女の相手をした。


「お前だってサボりじゃないか。そういや学校は再開したのか?」

「うん。まだ来れてない子もいるけど……あんな事が起こるなんて皆、凄いショックだったから。どうせ自習ばかりでまともに授業も出来ないし私もサボっちゃった」

「だろうなあ。あれは平和ボケした田舎モンには刺激の強すぎる光景だったからな」


 学校の事が気にならないと言えば嘘になるが正直気にかけている余裕がなかった。それに心配する程度に仲のいい人間もそんなにいないし。


「と、ところで。ヒロ君はつるぎちゃんとその、ピーをしたの?」


 ああ、やっぱりそうなるか。年頃の仲のいい男女が二人っきりで消息不明になればそうなるよな。


 ちらりと柴咲の顔を見ると好奇心と恥ずかしさが入り混じって紅潮していた。これからまた何度も知り合いに聞かれると思うとげんなりとしたが取りあえず弁明をしておく。


「安心しろ、そういうのじゃない。ちょっと異世界に迷い込んでいた」

「なな、成程、は、は、初めての世界を! つるぎちゃんが大人の階段をピィ~!」

「ウォッホン」


 職員のじいさんは咳ばらいをし喧しい彼女をジト目で睨む。ちょっと怒っているようだ。


「図書館では静かにしろよ」


 俺は勝手に盛り上がる柴咲を適当にあしらい資料を読み続ける。けれどこの行為に意味があるのだろうか。


「でも何でそんな難しそうな本をたくさん読んでるの? ヒロ君ってそんな事に興味があったんだ」

「白倉の天女伝説の事を調べていてな。異世界というか、並行世界と関係があると思って」


 そこまで言って柴咲は平静さを取り戻した。ほんのりと真面目モードになった彼女はようやくまともに話が出来るようになる。


「あ、ああ、やっぱり本気で並行世界の事を話してたんだ」

「別に信じなくても構わんが。そういうわけで俺はしばらく学校に行くつもりはない。うみちゃんにもそう伝えてくれ」


 だが、彼女は変な顔をする事なく何故か寂しそうな表情になった。


「私も前に話したよね、並行世界の事を」

「ああ。柴咲と天神は薄っすらとこことは違う世界の記憶があるんだっけか。それはどういうものなんだ?」


 それは与太話として、まだ並行世界について確証がなかったあの時は半分適当に聞き流した話だった。けれど今は事情が違う。ここは詳しく話を聞くのもいいかもしれない。


「うーん、私もそんなには覚えていないけどね。基本的には夢の中の話だし。自分でもありえないってわかっているから考えないようにしていたらほとんど忘れちゃった。もし別の世界で私が生きていたとしても、それは私とは違う誰かの物語でこの世界を生きる私には必要のない記憶だから」

「ふーん」


 言葉とは裏腹に彼女は切ない表情を浮かべていた。しかし俺はこの状況で励ます言葉を持ち合わせていない。こんな特殊な悩みに対するベストアンサーなんて何処で知る事が出来るというのだろうか。


「でも、並行世界と天女伝説がどう関係があるの?」


 柴咲は気を取り直し、話題を切り替える。


「確かに伝説で出てくる白倉山はいわくつきのある場所だけど。異世界と繋がっているとか、神隠しが多いって話はよく聞くけどさ」

「え!? い、いや俺は知らんけど。どこでその話を聞いたんだ?」


 思わぬところから有力情報が飛び出したので俺は即座に資料から顔を離し彼女を凝視してしまう。その眼力に柴咲は少し怯んだが話を続けた。


「確か、ええと、どこだっけ。そうそう、うみちゃんの神社で小さいころに宮司のおじいさんから聞いたよ」

「うみちゃんの神社? うみちゃんって、先生のうみちゃん?」


 恐らくうみちゃんとは自分の担任教師の事を指すのだろうが、どうしても神社と結びつかず俺はそんな質問をしてしまった。


「うん。あれ、知らなかった? 海野先生って実家は神社だよ。白壁土蔵群のあたりにある。ヒロ君も場所は多分知ってるんじゃないかな」

「そうだったのか。白倉が地元ってのは聞いた事はあるけど」


 意外な名前が出て自分の知らない事実を知ってしまったが、これはかなり有益な情報だ。昔からある神社にならば俺の求める情報があるかもしれない。


 ならすぐに行動すべきだろう。俺はすぐに席を立ちリュックサックを背負った。


「あれ、何処に行くの?」

「本を返したら早速神社の宮司さんに話を聞く。ありがとな、柴咲、耳より情報を教えてくれて。やっぱり情報収集はモブの村人に限るよ」

「さらっと酷い事言うね!? モブだって事はわかってるけど!」

「ウォッホン!」


 職員のじいさんはまたしても咳ばらいをする。何ていうか本当にすみません。


「でもおじいさんは認知症になって今は老人ホームにいるから無理だと思うな。息子さん、つまりうみちゃんのお父さんが後を継いで宮司になったみたいだけど」

「そっか。まあ話が聞ければどっちでもいいが」

「うみちゃんに聞くっていう発想はないの?」


 それが簡単に導き出せる最適解ではあろう。初対面の人間に話を聞くよりもそれが一番楽である事は想像に難くない。俺はうみちゃんの人となりを知っているし事情を話せば想定以上の収穫もあるかもしれないし。


「でもなあ。ちょっと今喧嘩したばかりっていうか、気まずいっていうか」


 俺はつい最近、うみちゃんと家庭環境や進路について口論をしてしまった。俺がガキである事もあるが、うみちゃんも人の心に踏み込みすぎたからああなったのだと言い訳をして謝罪を先延ばしにしてしまったけど。


「なら仲直りも兼ねて会いに行けば?」


 柴咲はそんなお手本のような提案をする。俺のひねくれた性格ではなかなか思いつかない発想だ。


「うーん……まあそうするか。また学校で気まずい事になっても嫌だし」

「それがいいと思うよ。ファイト、ピッピだよ!」


 ファイトピッピ?


 その応援のニュアンスがよくわからなかったが小西谷から護った事実をダシに使えば何とか仲直り出来るだろう。俺は本を片付けすぐに神社に向かう事にした。

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