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1-6 初めてのバトル

 しゃがんで、草を採って、移動して、しゃがんで、草を採って。単純作業だけど運動不足の僕にとっては結構いい運動になる。


 今は春ごろだからちょっぴり暑くて汗もかいてしまう。たくさん野草があるのはいいけどさ。


 黙々と単純作業をし続けるけどナビ子ちゃんはまだ帰って来ない。立ち上がってキョロキョロと周囲をうかがうけれどやっぱり彼女はいなかった。


「ナビ子ちゃん?」


 ちょっと遅いけど狩りに手間取っているのかな。独りぼっちは寂しいし怖いから早く戻って来てほしいんだけど……。


 ゴロ……。


 その時瓦礫が動く音がした。どうやら何かが近くにやってきたようだ。


「もう、遅いよ。怖かったんだから、ナビ子」


 野生動物はまず僕に近づかないからきっとナビ子ちゃんだね。そう思った僕はホッと胸をなでおろし彼女の名前を呼ぶけど、


「ちゃ、ん……」


 建物の影から現れた『それ』を認識し、僕は何も出来ずに固まり言葉を失ってしまったんだ。


 僕はあれをどこかで見た事がある。たまに浜辺に打ち上げられているとても生命体とは思えない得体の知れない何かだ。耐え難い悪臭を放ち、脂肪の塊のように醜悪なぶよぶよとした肉塊は視界に入れるだけで吐き気を催してしまう。


 とりあえずアメーバのようにうごめいている事からその正体はクジラや軟体動物の死骸ではないだろう。そもそもここは浜辺じゃないし。


「ッ!」


 ようやく我に返った僕は理解する。あれはとても恐ろしいものだと。飛び跳ねるようにその場から走り出し、まずはなにがなんでもその場から離れるべきだと生存本能が命令した。


 幸いにしてアメーバの動きはのろく小学生の僕でも簡単に逃げられる。動き続ければ追いつかれないと判断した僕は、取りあえず距離を保ちながら振り返り様子をうかがう事にした。


「なんなの、これ……!」

「ブルルゥル……」


 怯える僕を見てアメーバはひどく愉快そうに呻く。そいつは全身から牙のような突起を生やし僕を食べる気満々だった。


 なんて恐ろしい怪物だ。けどそれどもやっぱり遅い事には違いない。だから関わらないように逃げれば何の問題もない!


「まったくもう、なんなのさ……!?」


 僕は視線を前方に戻す。しかし僕は気が付いてしまった。


 アメーバは一体だけではなかった。今、僕の目の前に肉塊が存在し、ヒルのような大きな口を開け弱々しい人間の子供を食らおうとしていたんだ。


「ひっ」


 ――死ぬ。


 あまりの恐怖に僕は息が出来なくなって腰を抜かしその場にへたりこんでしまった。心臓は破裂しそうなほどに鼓動し早く逃げろと全身に血液を送るけれど、その思いに答える事なんて出来るはずもなかった。


「そいやーッ!」

「ッ!」


 バババババッ!


 甲高い声が聞こえたあと鼓膜が破れるほどの爆音が周囲に響き、僕の目の前にいたアメーバは無数の銃弾を浴びその肉体をとどめる事が出来なくなってしまった。


 そして泥人形が壊れるように地面に溶けると、彼女は右手のブレードで遠くにいたアメーバも切り刻んで簡単に絶命させる。


「大丈夫デスか、みのりさん!?」

「う、うん、ありがとう、ナビ子ちゃん」


 助かった。僕はそう理解し安心して瞳を潤ませる。そんな僕にナビ子ちゃんはすぐに駆け寄ってくれる。


「すみません、シカさんの血抜きや処理に手間取ってしまって。ワタシのせいでみのりさんに怖い思いをさせてしまいました」

「そんな、謝らなくていいよ」


 ナビ子ちゃんは本当に申し訳なさそうに手を差し伸べてくれたので、僕は頑張って笑顔を作り震える足で立ち上がった。


「でも、これは一体なんなんでしょう?」

「……ナビ子ちゃんも、知らないの?」

「ええ、ワタシのメモリーにはないデス。いえ、そもそもデータが損傷しているのであまり当てには出来ませんが……」


 ナビ子ちゃんは異形の怪物を前にひどく戸惑っているようにも思える。彼女になら簡単に倒せるのがせめてもの救いなのかな。


 だけど彼女の両腕を見た僕は改めてロボットなんだって実感してしまう。本当になんのためにナビ子ちゃんは作られたんだろう。


「ところでみのりさん。これ、焼いたら食べれますかね?」

「お腹を壊すからやめたほうがいいと思うよ」


 でもそんなシリアスな空気もナビ子ちゃんの旺盛な食欲によって上書きされてしまう。


 僕は平常運転の彼女のおかげで冷静さを取り戻し、思わず笑みをこぼしてしまったんだ。ちょっぴり涙声だったけどさ。

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