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3-25 神在の異変と、狂う人間たち

 その頃、島根県、神在(かみあり)市街地にして。


 鳥取西部の都市、稲子と対になる神在市は島根県の県庁所在地ではあるが、人口は二十万程度で経済の面でもその規模は政令指定都市には遠く及ばない。


 また県自体が財政破綻しそうなほど深刻な赤字財政であり、ここもまた白倉同様やがて消滅してしまう都市の一つなのであろう。


 そんな希望が持てない場所であるからそこに住む人間たちの心も荒んでいる。県外からの移住者には排他的で、校内暴力や虐めも全国トップの常連だ。


 そしてとあるコンビニの前で日の高いうちから煙草を堂々と吸っている四人の不良たちがいた。彼らもまた未来に夢が持てないこの町の住人である。


「あーあ、何か面白い事ねぇかなー。金もねーし」

「また佐竹さたけから金巻き上げればいいじゃないっすか」


 下っ端の不良は顔にガーゼをつけたリーダー格の男にそう提案する。しかし彼はチッと舌打ちをして忌々しそうにこう言った。


「いいや、あの野郎最近妙な連中とつるんでてさ。そいつが時代錯誤の侍みたいな奴なのに半端なく強ぇんだよ。ありゃ束でかかっても無理だな。だからもうカモるのは無理だわ」

「ああ、そういやあいつ最近変わりましたね。急に丸坊主になって。あんだけビビってた佐竹のくせによ……」

「やめやめ、あいつの話はするな、煙草が不味くなる」


 自分たちが見下していたチンピラとも呼べない中途半端な人間が新たな道を踏み出したという事実は彼らの心の闇をより一層深くしてしまう。煙に汚染された肺から少年たちは澱んだ吐息を吐きだした。


「一服したら適当にそのへんのオッサンでもボコるか。ストレス発散と金稼ぎも兼ねて」

「そだな」


 自分たちはいつまでこんな生活をするのだろう。


 結局不良がもてはやされるのは子供のうちなのだ。


 リーダー格の男ははみ出し者にとっては人気の就職先である暴力団に憧れを抱いていない。任侠映画の極道は所詮作り物だ。自分の父親が上納金のために泣き叫ぶ祖父母から年金を奪い、プライドもなくひたすら力を持つ者に媚びその日暮らしの金を得て、クスリを注射して意味不明な事を喚き散らし玄関先で糞を漏らして寝転がっていれば嫌でも幻想は打ち砕かれてしまう。


 喧嘩しか出来ず頭の回らない自分は金を稼ぐ事は苦手だ。半グレも結局は違法なだけで仕事なのだ。もしそうしたところに所属したとしても、自分はきっと尊敬の眼差しを向けていた先輩の不良がそうであったように、散々利用された挙句消耗品として使い捨てられるだけだろう。


 誰でもいい。人を殴りたい。壊したい。彼の心の中にはどす黒い感情が渦巻いていた。


 だがその時、不意に頭の中に奇妙な音が鳴り響いた。


 ぴーひゃら、ぽんぽん。


 ぴーひゃら、ぽんぽん。


 ぴーひゃら、ぽんぽん。


 それは笛と鼓の音だった。


「ん……? 何だこの音」

「へ?」


 しかしその音が聞こえたのはリーダー格の男だけだった。ここは島根県であるしそのあたりに神社がある。大方どこかで祭祀を行っているのだろう。


 けれど何だろう。とても気持ちがいい音だ。これを聞いていると意味もなく楽しい気分になってしまう。


「え? な、何、どうしたんすか? それ、普通の煙草っすよね」

「あ、ああ……」


 リーダー格の男は薬物中毒者のような歪な笑みをする。その突然の変わり様に取り巻きたちは怯えてしまった。


 ああ、幸せとはこういう事を言うのか。


 誰でもいい。人を殺したい! その血肉を引き裂きたい!


「俺、今、世界の真理を知ってしまった。暴力こそが幸せで幸せは死、楽しい、友達大好き! 全部神様に脳味噌捧げれば、ソそうすウればみんなはハッピーで、世界平和! なぜんでこんな単純なァ事に気付かなかっんだ! ああ、うだ、友だチ作らなきゃこの幸せ教えなきぃア、ひ、ひひひィィイイ!!」


 リーダー格の男の目は虚ろなものに変わり早口で支離滅裂な言葉を喚き散らした事で仲間は流石にただ事ではない事を理解してしまう。全員が怯え、静かに後ずさり始めた。


「え、え?」

「おい、なんかヤバ、」


 そしてまず彼は自分を最も慕っている人間と愛を誓う事にした。リーダー格の男は煙草を持って、本能の赴くままに行動する。


 ジュ――ッ!


「ィぎゃあァアアア目ェェエエエッ!!」

「ヒィイイ!?」

「うわああ!?」


 煙草を押し付けられた少年は目を押さえてのたうち回る。他の取り巻きたちは言うまでもなく散るように逃げ出してしまった。


 リーダー格の男は懐に隠したバタフライナイフを取り出し、彼に馬乗りになって楽しそうに叫んだ!


「ぴーひゃら、ぽんぽん! ぴーひゃら、ぽんぽん!」

「あ、グェバ、ヴぇうぼぼぁぃあだッ!!」

「キャアアア!?」

「うわああああ!?」


 何度も、何度も、何度も、彼はその顔面にナイフを振り下ろす。刃先が折れても気にせずに。


 子供が虫を弄んで殺すようにその狂気の快楽を男は楽しんでいた。コンビニの前は血の海に変わり、周囲の人間は悲鳴を上げて逃げ出してしまった。

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