3-23 ひと時の友との別れ
浜辺で馬鹿騒ぎをして、ずぶぬれになった翌朝。
バスで目を覚ました僕はヒロとつるぎちゃんの姿が無い事に気が付いた。最初は外に出たのかと思ったけれど、周囲を軽く探しても二人はどこにもいなかった。
遠くを探そうとしたけれど、やめた。周りには怪物もいるし、二人には見知らぬ場所で危険を冒してまで遠出をする理由はないからその可能性は低いだろう。
「いないね」
「ふーむ、そもそもドアが開いたログもありません。これはどういう事でしょう」
ナビ子ちゃんはバスのデータを調べそう説明してくれる。つまり二人は普通の方法で外に出たという事ではないのだ。
「夢オチ、とかじゃあないよね」
もしかすればあの楽しいひと時は幻だったのかもしれない。僕はそんな事も考えてしまった。
「それはないと思いますが。ちゃんと映像データも残っていますし」
ナビ子ちゃんはううむ、と考えこむ。だけどいくら考えても僕も彼女も何が起こったのかさっぱりわからなかった。
「お二人とも元の世界に帰ったのでしょうか?」
「そうなのかな。だとすればいいんだけど……」
僕はそう祈る事しか出来なかった。でも突然消滅してしまったわけだから可能性はあるだろう。
それが嬉しくもあり、ちょっぴり寂しかった。
「折角また会えたのになあ。けど仕方ないか」
「はい。でもきっとまた会えますよ」
「そうだね」
ナビ子ちゃんが笑みを向けてくれたし僕はポジティブに考える。二人は無事元の世界に帰る事が出来たんだ。なら何も不幸な事ではない。
「さて、少し遅れちゃったけど僕らも次の目的地に向かおうか」
「ええ、そうしましょう!」
僕らは気を取り直し旅支度を始める。この世界での旅は命懸けだから準備し過ぎてもし過ぎる事はないからさ。
タコの神様はちゅるるー、と笑顔で手(?)を振って出発するバスを見送ってくれた。移動中はする事が無くて暇だったけど、不意にナビ子ちゃんが悲しそうな顔でこう切り出したんだ。
「ええと、みのりさん。その、すみません」
「何が?」
謝られる心当たりがない僕は不思議に思い聞き返してしまう。
「みのりさんが昔悲しい事があったのに、ワタシは出会った時無理矢理演奏させるような事をしてしまいました。遅れてしまいましたが謝らせてください」
「ああ、なんだ、そんな事」
別に怒ってないし律義に謝らなくてもいいんだけどなあ。でもそんなナビ子ちゃんだから僕は仲良くなれたんだ。
「逆だよ。ナビ子ちゃんのおかげで僕はまた音楽が好きになれたんだ。だから感謝こそすれ恨む気持ちはさらさらないよ。今までずっとギターを弾いていたわけだけど、ナビ子ちゃんには僕が不満そうに弾いているように見えたのかな?」
「そう、デスか。ならよかったデス!」
ナビ子ちゃんはその返事に安心して嬉しそうな笑顔を浮かべた。ふと左横を見ると、そこには弾かれたくてうずうずしていた僕の相棒がいたんだ。
「なんだかヒロたちのおかげでインスピレーションも沸いて来たし、適当に弾いてみようか」
「ええ、お願いします!」
そして僕は気の向くままにギターをかき鳴らす。馬車に乗る旅人が荒野で弾くように、どこまでも自由で、心の赴くままに。