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3-22 終末の夕日と青春

 日没間近になり、僕は赤くなった窓の外を見て思わずバスから出てしまった。そして、その絶景を目の当たりにしてしまう。


「今日もいい夕日だなあ」

「ほおー」

「へえ」


 続いてヒロとつるぎちゃん、遅れてナビ子ちゃんも。みんなは駐車場に勢ぞろいして沈みゆく太陽を眺めていた。


 文明の明かりが消え去り黄昏は世界を黄金にも似た深紅に染める。前の世界では見られなかった、どこまでも虚しくそれゆえに美しい光景だ。


「綺麗デスね……」


 ナビ子ちゃんはどこか寂しそうにそう呟くと、夕日の向こう側を眺めた。


「ええ、思い出しました。ワタシは以前にもここを誰かと訪れた事があります。誰だったのかは思い出せませんが……」

「そっか。ちゃんと思い出してあげられたらいいね」

「はいデス」


 それはきっと終末だらずチャンネルの記憶なのだろう。僕の知らないナビ子ちゃんの友達の。


 そっか。ナビ子ちゃんは僕がやって来るまでずっと独りぼっちだったんだ。何度もこんな悲しい夕日を、気が狂いそうなほど長い時間独りで見続けたんだ。


「なんちゅーか、綺麗だけどさ。すごく悲しくなってくるな」

「ああ。情緒がそんなに豊かじゃない俺にもわかるよ」


 終末ライフ初心者の二人は早速センチメンタルな気分になってしまう。それを見た僕は思わず自慢する様に微笑んでこう言った。


「ずっとこの世界で暮らしていればこの死にたくなるほど美しい夕日の良さがわかるよ。絶望と仲良くすれば何もかもが美しく見えるんだ」

「そっか」


 ヒロはその言葉にやや強張った顔をしたあと、どうしようもなく悲しい表情を浮かべてしまう。


「お前はずっとこんな夕日を見てきたんだな」

「……………」


 ああ、やっぱりか。僕は確信してしまう。


 この世界で僕は骨の髄まで絶望に染まってしまったんだ。今、ヒロからすれば僕はゾンビのように見えているのだろう。


 もう僕は昔の鈴木みのりじゃなかった。ヒロもそれを理解してしまったらしい。


「なーに辛気臭い顔しているデスか!」


 だけどそんな暗いムードを吹き飛ばす甲高い声が聞こえる。ナビ子ちゃんは怒ったように笑っていたので僕らは戸惑ってしまった。


「そこに夕日があるなら叫ばなくてはなりません! あるいは浜辺で殴り合わなければいけません! ここは友情を育みましょう!」

「そうだな、面白そうだ」


 つるぎちゃんはその提案に同意し問答無用でヒロを担ぎ上げた。というかさらっとやってのけたけど凄い力持ちだね。


「おいおい、降ろせよ」

「さあ、みのりさんも!」

「え、ええ?」


 僕はわけがわからなかったけれど、ナビ子ちゃんに手を引っ張られてバスの中に押し込まれてしまった。


 そんなわけでバスに運ばれ僕らは近くの浜辺に連行される。夕日に染まる浜辺でナビ子ちゃんは意味もなく走り出したんだ。


「さあ、捕まえてごらんなさいデス~!」

「はは、何なのこれ」


 苦笑した僕につるぎちゃんはポン、と肩を激しめに叩く。彼女にとっては普通に触ったつもりなんだろうけどちょっぴり痛い。


「青春は細かい事を考える必要なんてない!」

「そのとおり! さあ、とにかく走るなり水をバシャバシャやるデス!」

「わぷ!」

「おわ!?」


 つるぎちゃんは突然水をかけ、戻ってきたナビ子ちゃんも不意打ちでバシャンと攻撃してくる。不意打ちを食らった僕とヒロは一瞬でびしょぬれになってしまった。


「ああもう!」

「まったくよぉ!」


 うう、冷たい! 僕らは怒り、ヤケクソ気味になって水をかけ応戦する。


 一瞬何をやっているんだろうと思い馬鹿らしくなったけど、それはとにかく楽しかったんだ。


 全身ずぶぬれになり、大声で笑い、馬鹿騒ぎをして。あの頃に戻ったように、僕らは心の底からはしゃいでいた。


 なんだ。何も変わってなかったんだ。僕らはあの頃のままずっと親友だったんだ。ううん、ナビ子ちゃんもいるしあの時よりもずっと楽しかった。


 これからも何も考えずにずっとずっと遊びたかった。


 いつか、この楽しい日々が終わりを迎えるとしても。

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