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3-21 笛と鼓の音の謎

 そして僕らはバスに戻り、改めて今後の事を話し合う事にした。


「むむ、でもどうしましょう。一体どうすればヒロさんとつるぎさんは向こうの世界に帰れるのでしょうか」

「そこなんだよなー」


 つるぎちゃんは腕を組み険しい表情をしてしまう。今まで平和に暮らしていたのに、いきなりこんな終末の世界に迷い込んでしまえば至極当然の反応だろう。


「ちなみにみのりたちはその方法を見つけられていないから未だにこの世界にいるわけなんだよな」

「そうなるね。ナビ子ちゃんは元々この世界の住人だけど」


 だけどヒロはその時あ、と何かを思い出したようだ。


「そうそうみのり。お前地震があって意識不明になった時、笛と鼓の音を聞かなかったか? ぴーひゃら、ぽんぽんっていう」

「え? 笛と鼓……?」


 僕はあの瞬間の事を思い出す。そうだ確かにあの時僕は笛と鼓の音を聞いた。脳味噌をぐちゃぐちゃにかき回すような、耳にこびりついて離れない音だったから覚えている。


「もしかしてヒロも聞いたの? あの耳障りな音を」

「そうか、やっぱりあれは幻聴じゃなかったんだな……そうか、そういう事か」


 ヒロは何かを考え込みしばらくぶつぶつと独り言を言い始めた。けれど僕はイマイチ理解出来なかったので聞き返す事にしたんだ。


「ヒロは何を考えているの? 笛と鼓の音が何だと思うの?」

「ああ、こっちの世界じゃ発狂した人間が事件を起こすっていう騒動が起きていてな。そいつらは笛と鼓の音を聞いて精神が崩壊したなんてネットで噂になっていてさ。正直信憑性は微妙だったが白倉でも同じような事件が起こったんだ。俺はそいつがぴーひゃら、ぽんぽん、って呟いているのを確かに聞いたんだよ」

「へー、白倉も物騒になったものだね」


 僕の知らない間に白倉は大変な事になっていたようだ。心配だけど僕にはどうする事も出来ないしなあ。


「小西谷の野郎か。で、ヒロ、お前は何が言いたいんだ?」


 つるぎちゃんの質問にヒロはああ、と頷き真面目な顔でこう言った。


「ぴーひゃら、ぽんぽん。これは笛と鼓の音だ。さて、白倉と、笛と鼓の音で真っ先に思い浮かべるのは?」

「笛と鼓……打吹公園かな」


 僕はその名前を口に出す。打吹公園は市内にある公園で市民の憩いの場になっており、打吹公園だんごはそこに由来する銘菓だ。でもそれがどうしたというのだろう。


 だけどそこで僕はハッとなってしまう。


「もしかして天女伝説の事を言っているの?」

「ああ、そのとおりだ」


 そして僕の代わりにヒロが語りだす。


「白倉に伝わる天女伝説は天女がやって来て、人との間に子供を産んで、天界に帰ったとかどこにでもある天女伝説と大差ないそんな感じの話だ。だが他の地域に伝わる話とは大きく異なる箇所がある。それは悲しんだ天女の子供のおくらとおよしが、そいつが好きだった笛と鼓を演奏して帰ってくるようにお祈りをしたっていう部分だな。この伝説は打吹の地名の元にもなっているからお前も知っているよな」

「そりゃ地元民なら誰でも知っている昔話だから。駅前にお倉とお吉の銅像もあるし、打吹公園だんごも有名だし」


 僕がそう言うとつるぎちゃんもうん、と同意する。白倉の天女伝説は子供のころから何度も聞かされているから忘れるはずがない。


「俺は思うんだ。天女が天界ではなく別の世界に行ったとするならば、今の俺たちの状況とリンクしている部分がある。俺達は笛と鼓の音を聞いてこっちの世界にやってきたし、発狂した人間も何か関係があるんじゃないかって考えている」

「むむむ、成程。調べてみる価値はありそうデス」


 ナビ子ちゃんもその意見に同意し、むむむ、と唸って彼女なりに意見を出そうと頑張っていたけど情報が少ないから何も判断出来ない様だ。


「あたしも関係があると思うけど、どうやって調べるんだ?」

「そこなんだよなー。まずは元の世界に戻らないとなー」


 結局は一周回ってそこに戻ってしまう。それらの情報があるのは向こうの世界であり、この世界で出来る事はそんなにないのだ。


「ま、取りあえず今日の活動はこのへんにしておきましょう。お二人もいろいろあって疲れているでしょうし」

「それもそうだな」

「んー、賛成」


 見かねたナビ子ちゃんがそう提案するとヒロとつるぎちゃんは同意する。何にしたって今日はゆっくり休んで疲れを取った方がいいだろう。


 そして緊急会議はお開きとなる。その後ナビ子ちゃんが用意してくれたドライフルーツをおやつに、のんびりとしたお茶会が始まって、僕らは和気あいあいと優雅な終末の時間を過ごしたのだった。

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