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3-19 カレイと赤てんとその他再び

 さて、メインはマトウダイとカレイの一夜干しなわけだけどサブの料理も忘れない。僕とナビ子ちゃんは魚をすり身にして唐辛子を混ぜ、衣をつけて揚げて、もう一品料理、というかおつまみを作る事にした。


 料理と言っても物資や道具に乏しい終末クッキングでは簡単な調理が求められる。そんなわけでカレイの素揚げ、マトウダイのフライ、赤てんがものの数分で完成した。


「さあ、完成デス!」

「おおー!」

「なかなかガッツリ系だな。空きっ腹だから胃がビックリそうだなあ」

「あんな事を言っているからナビ子ちゃんはヒロの分まで食べてもいいよ」


 つるぎちゃんは感動するけど、ヒロは贅沢にもそんなクレームを言ったので僕は意地悪くそう言った。


「マジっすか! では遠慮なくゴチになります!」

「マジじゃないっす、すみません」


 さあ、僕も何だかお腹が空いてきたし早速食べよう!


「うめー!」


 サクッ! と、とてもいい衣の音がする。つるぎちゃんはまず赤てんにかぶりついたらしい。真っ先に自信作を口に運んでくれて作ってくれた僕としては嬉しいな。


 赤てんは噛めば噛むほどピリ辛なすり身の味が口の中に広がり練り物にしてはなかなか侮れないご馳走である。そんな島根の誇る至高のおつまみを彼女は笑顔でバクバクと胃袋に収めていった。


「僕は飲んだ事がないけどビールがあったらたまんないだろうね」

「はいデス! あ、ここに秘蔵の自家製マヨネーズがありますよ! 卵は入手しにくいのでここぞという時にしか使えませんが今がその時デス!」

「おおー! じゃ遠慮なく!」


 つるぎちゃんがナビ子ちゃん謹製マヨネーズを赤てんにかけたので、僕も同じようにマヨネーズをつけて食べてみる。


 ああもう、サクサクの衣によく絡む濃厚なマヨネーズと凝縮された魚の旨味、それに刺激的なピリ辛風味がたまらないよ! 僕も前の世界で食わず嫌いせずにもっと赤てんを食べればよかったなあ。


「マトウダイってこの辺の名物だったか。腹が減ってるから余計に美味いぞ」

「もうちょっと美味しく食レポをしてよ。口からビームとか出して」

「無茶言うな。そういうのは悪ノリした作監に頼め」


 ヒロが食べたマトウダイのフライは淡白な白身魚の味がする。タイと聞いてイメージするような赤いものではなく黒くて地味な見た目だけど、地元の人に愛される魚だ。


「今は旬ではないデスがちゃんとした時期に食べればもっと美味しいのでしょうね。もちゃもちゃ」


 骨も少なくほろほろと崩れる身は優しい味わいだ。だけどこれらはどちらも前菜。メインディッシュはやっぱり立派なカレイの素揚げだろう。


「さあて、いよいよデス! ガハハ、食ってやるデス!」


 ナビ子ちゃんはヘンテコなテンションになり、素手で魚の頭としっぽを掴んでガブリとかぶりつく。僕もさっそく真似をしてみる事にしよう。


 パリッ!


 まずは煎餅のようなカリカリのヒレ。そして脂ののったエンガワに、なによりも肉厚でジューシな白身! そのすべてが絶妙に調和し、ほとんど味付けをしていないのにこんなにも美味しくなるのか!


「ああ、何度食べてもいい物デス。ワタシはやっぱりこれを昔食べた事があります。人は美味しいものを食べると涙が出てしまうんデスね!」

「ところでナビ子ちゃん。その涙は感傷かな。それともただの美味しさに対する感動かな?」

「感傷が1で美味しいのが9デス!」

「でしょうね」


 僕は苦笑したけどこれは文句なしで美味しい。ヒロとつるぎちゃんも美味しそうにむしゃぶりつき、一片の肉片も無駄にせず食らい続ける。


「いやあ、これはいかんよ。俺は地元を舐めていた、地産地消は素晴らしいなァ!」

「おう! 腹減っててよかったよ、こんなに料理が美味くなったからな!」


 ああ、何て賑やかな食卓だ。こんなに楽しい食事の時間は久しぶりだよ。僕が求めていたのはこういう光景だったんだ。


 だからもうあの世界に何の未練もない。こんなのを食べたらもうコンビニのお弁当なんかじゃ満足出来ないよ。


「それにしても揚げ物ばかりで昼間から随分とハイカロリーだなあ。ま、今日はする事がたくさんあるからしっかり食べないとね」

「うん? 何かする事があったのか?」


 ヒロはカレイの一夜干しを食べながら尋ねたので僕もうん、と頷いてから言った。


「元々僕らはそこにあるお社を修理するために廃材とかを集めていたんだ。そこでヒロたちを見つけてね」

「ふぅん。でもなんでそんな事を」

「ちゅるるー」


 彼が頭の上に疑問符を浮かべるとどこからともなくタコの神様が戻ってくる。その不思議な生命体に初見の二人は少し驚いてしまった。


「おお、何だこのキモ可愛い奴」

「ちゅるるー!」


 つるぎちゃんは早速タコの神様に近づき抱き抱え赤てんを餌付けする。ヒロは困惑して、彼(?)がもしゃもしゃとそれを食べる姿をちょっぴり引いた様子でそれを眺めていた。


「可愛いかあ? そんなぬるぬるした奴が。女の感覚はよくわからんよ」

「ちゅるる?」


 どうやらヒロには刺さらなかったようだ。僕も可愛いと思うんだけどなあ。


「あのお社はこのタコの神様のお家で、ワタシたちは成り行きで修理する事になったんデス」

「へえ、ならあたしたちも手伝うよ。料理のお礼もしたいし」

「ん、そうだな」

「はい、よろしくお願いします!」


 手伝いを申し出てくれた二人にナビ子ちゃんはにっこりと笑みを向けた。人手も増えた事だし食事を終えたら早速作業に取り掛かろうか。

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