3-14 現実と終末の情報交換
そいでもってバスに乗ってみのりたちが拠点にしている駐車場に到着した俺達は、まず真っ先にきれいな水をグビグビと勢い良く飲み込んだのだ。
「くはぁー! 水だ、ヒャッハー!」
「マジで美味ぇ。この水なら千円出せるぞ」
世紀末の暴徒の様に歓喜の声を上げたつるぎに俺は笑ってそんな事を言った。メイド服の少女はそんな様子を眺めくすくすと笑ったあと、固形食糧のようなものを持ってくる。
「保存食デス。こんなものですみません、すぐに食べられる栄養満点な食糧があまりなくて。今たんぽぽコーヒーも淹れますねー」
「いや、全然いいよ。それじゃあいただきます」
「あたしもいただきます!」
これほどまでに食べ物に感謝した事があっただろうか。俺たちは真心を込めていただきますと言って固形食糧を夢中で頬張る。
見た目はカロリーをすぐに摂取する事を目的に作られた長方形のアレに似ていて、それの四つ分くらいの大きさだが、その味は段違いでまるでコンビニにあるちょっと高級なお菓子のようだ。
適度にしっとりとしてサツマイモの優しい甘さも悪くない。クッキーというより硬めのケーキだな。これは空腹でなくても普通に美味しく食べれるお菓子だろう。
「……………」
飢えがある程度マシになったところで俺はみのりの様子をうかがってみる。彼女はどことなく緊張していてわずかながらに警戒の表情が見て取れた。
そんな顔してほしくないんだけどな。親友だったのに……。
「ところで、差し支えなければお二人の事を教えていただきたいのデスが。みのりさんのお知り合いなのはわかりますが、ワタシだけなんだか置いてけぼりで寂しいデス」
「ん、ああ。俺もこの世界の事について知りたい。一息ついたしこの辺で自己紹介と情報交換をしよう」
まずは自分の置かれた状況を理解しよう。俺はまだ何も知らないのだから。
みのりがどうしてこの世界にいるのか、そしてメイド服の少女が何者なのか、なによりもこの滅んだ世界は一体何なのかすらも。
「俺は御門善弘。基本的にヒロって呼ばれている」
「あたしは真壁つるぎ。あたしとヒロ、そしてみのりは幼馴染だったんだ」
「ほへー、そうだったんデスか! お友達と会えてよかったデスね!」
「ま、まあね」
メイド服の少女は手を叩いて喜ぶがみのりはどこか他人行儀な笑みを見せてしまったので、俺の壊れかけの心は砕かれそうになる。
もしかすれば……もう彼女は俺たちの事を。だけどそれも当然かもしれないな。自業自得だし。
「さて、ワタシはロボットメイドのナビ子と言います。成り行きでみのりさんと旅をする事になりました」
「ろ、ロボットメイド?」
「まあそういう反応をするよね、普通は」
俺が思わず聞き返すとみのりはあはは、と苦笑してしまう。彼女も以前そんな反応をしてしまったのだろうか。
「実際、腕がブレードに変形していたし、すごいジャンプ力だったし、あたしは信じるけど」
つるぎも状況に慣れたのかすんなり現実を受け入れた。もういろいろと無茶苦茶な事が起こっているしロボットくらい今更だろう。
「話が早くて助かります。ワタシは数年前にみのりさんと滅んだ白倉で出会い、ワタシは失った記憶を思い出すため、みのりさんは元の世界に帰る方法を見つけるために一緒に旅をする事になったんデス。もっともどちらも未だにそれらしい情報は見つかっていませんが。すみません、みのりさんをそちらの世界に帰す事が出来ずに……」
「……………」
ナビ子は謝罪するがみのりは思わず目をそらしてしまう。どこか罪悪感が混じったそんな目だった。
「いや、仕方ないさ。それよりもお前はずっとこの世界でみのりを護ってくれていたんだな。友人として礼を言うよ」
「ああ、あたしからも言わせてくれ。本当にありがとう」
「いえいえ、こっちとしてはみのりさんとの毎日は基本的に楽しいだけなので、そんな大層な事をしているつもりではないのデスが」
ナビ子は手を目の前でわちゃわちゃとせわしなく動かし照れたリアクションをする。感情表現も豊かでとてもロボットとは思えなかった。
「そんな事ないよ。時々怪物が現れてもいっつもナビ子ちゃんが僕を助けてくれるんだ。ナビ子ちゃんがいなかったら僕はとっくの昔に死んでいたよ」
「えへへ、そんなに褒めないでくださいよ~」
みのりにも褒められナビ子はくねくねと動いてしまう。一瞬ほのぼのとした空気が流れるが俺はやっぱり不安だった。
「さっきみたいな怪物がよく現れるのか?」
「はい。みのりさんがこの世界にやって来てから時々見かけるようになりまして。ワタシなら基本的に秒殺出来るのでそんなに困ってはいませんが」
俺達はオオサンショウウオの怪物を前に、怯ませる事は出来ても手も足も出なかった。ましてや戦う術を持たないみのりなんてナビ子がいなければすぐに餌食になってしまうだろう。
だがそれはまるでみのりが連中を引き寄せたみたいな話だ。ううむ、どういう事なのだろうか。