3-13 再会する親友たち
――鈴木みのりの視点から――
廃屋で見つけた人間の痕跡。それは僕らを取り巻く環境が大きく変わる事を意味していた。
「うーむ、誰かさんはどこにいるのでしょうか」
「さあ、ね」
「暗いデスねー。みのりさんはお会いするのに乗り気ではないのデスか?」
ナビ子ちゃんはすぐに僕が思っている事を見抜く。僕は素直に葛藤を口にする事にした。
「本音を言えば知らない人と会うのは怖いよ。悪い人かもしれないし。でもだからと言って見殺しには出来ない。あのコーヒーが最近飲まれたという事はその人はついこの間こっちにやってきたっていう事だよね。なら僕が迷い込んだ時みたいに心細い思いをしているだろうし」
「ええ、困っていたら助けてあげましょう」
ナビ子ちゃんはガッツポーズをしていつになく気合が入っていた。僕も無理やりにでもやる気を出さないとね。
缶コーヒーを飲んだ人間を探すため僕たちは廃墟の町を歩く。だけど何やらどこからか騒がしい物音がした。
「ヒロッ!」
「ッ!?」
そして誰かの叫ぶ声が聞こえる。間違いない、誰かがいる!
「むむむ、これは荒事の予感デスね! 大方いつものようにうねうねした何かが現れたのでしょう。みのりさん、離れないでくださいね!」
「う、うん!」
どんな怪物が現れるかはわからないけれどナビ子ちゃんなら何の問題もない。今までもずっと彼女は僕を護ってくれたんだから。
ナビ子ちゃんは猛スピードで駆け出し、あんな事を言ったのに早速僕を引き離した。だけど今は来訪者を助ける事が最優先だからそれくらいは我慢しよう。
「クソッ!」
「つるぎ、逃げろッ!」
大通りに出ると僕は巨大なオオサンショウウオの怪物を発見し二人の人間の声を確認した。あれ、でもナビ子ちゃんはどこに?
「そいやーデス!」
あ、上にいた。彼女は大ジャンプをして右手のレーザーブレードを展開、オオサンショウウオの怪物に刃を振り下ろした。
怪物の身体は地面と垂直方向に切り裂かれて真っ二つになり、敵は何が起こったのかわからないまま絶命してしまう。そしてパカ、と割れた怪物の向こう側にいる二人の人間を僕はようやく見つける事が出来たんだ。
でもやっぱり人がいたんだ……それはまるで宇宙人と出会うような未知との遭遇であり、僕の心臓はバクバクと激しく暴れ動揺していた。
「無事デスか、人間さん」
「え、あ、ああ」
人間は二人。ひ弱そうな男の子を庇うように褐色の肌の女の子が道路標識を持って立っていた。どちらも年齢は僕と同じくらいだから高校生くらいかな。
「取りあえずワタシたちの拠点に行きましょう。ああいう怪物は一匹いれば百匹いると言いますし、ここに滞在するのはリスクがあるので場所を移動する事を推奨します」
「そ、そうなのか? ゴキブリかよ……それは流石にあたしでも無理か」
その言葉を聞き女の子は戸惑い険しい顔をしたので、僕は精一杯笑顔を作って安心させる。
「聞いた事はないけど経験上何匹かはいるかな。でもナビ子ちゃんにとってはゴキブリを倒すのと同じくらい簡単だから」
「はいデス! むしろゴキブリのほうがすぐ繁殖する上に気持ち悪いので嫌いデス! 食糧もダメにしちゃいますし!」
ロボットのナビ子ちゃんでもゴキブリは嫌いらしい。まあ女の子どうのこうの以前に害虫の食害はこの世界では死活問題だからね。
「ともかく助かったよ。それでそっちの拠点には水や食い物はあるのか?」
「はい、たくさんありますよ! なので安心してください!」
「まじか! いや~、助かったよ。昨日から何も食べてなくてさ!」
ナビ子ちゃんがそう伝えると女の子は本当に嬉しそうな顔になる。何となくだけど悪そうな人には見えなかった。
でも何だろう。二人の顔をどこかで見たような。それに男の子はどうしてさっきから黙っているのだろう。怪物に驚いたのかな。
……え? まさか。
――御門善弘の視点から――
ハザマンダに襲撃されるも謎の少女のおかげで九死に一生を得た俺とつるぎ。つるぎは謎の少女と楽しそうに会話をしていたが、俺はもう一人の少女の顔を見て呆然としてしまったのだ。
「みの、り……?」
あれから何年も経った。背も伸びて女性らしい体つきになったが、仮に動画で見ていなかったとしても俺が親友を見間違えるはずがない。
間違いない。彼女はみのりだ!
「え、まさか、ひ、ヒロ?」
彼女が俺の名前を呼びそれは確信に変わる。疲弊して動けなかったはずなのに、俺は無意識に立ち上がり彼女に抱き着いたのだ。
「会いたかった……会いたかったよぉ……ッ!」
「わわ、いや、え、ど、どうしてヒロが、ああもうちょっと取りあえず離れて!」
色んな感情が爆発し俺は顔をぐしゃぐしゃにして泣きわめいてしまう。だがみのりはどちらかと言えば困惑のほうが勝っているようだ。
「え? こ、これどういう事だ、ヒロ? ほ、本当にみのりなのか!」
「そっちも、まさかつるぎちゃん!?」
「うお、マジかよ! 本当に生きてたのか!」
みのりはつるぎの事も忘れていなかった。つるぎもまた泣きそうな顔になり、みのりに激しめに抱き着いたがなぜかみのりは彼女を優しく受け入れた。
この差は何なんだ? 俺達はまあまあ仲良かった気もするけど……。
ああそうか、俺は男だったか。今更ながらその事に気が付き俺はみのりから離れる。彼女は少し恥ずかしそうな顔をしていたが辛うじて喜びが勝っていたようだ。
「な、何だかわかりませんがこれは感動のご対面という奴デスか! おめでとうございます! でもお腹が減ってきたので早くバスに戻りましょう!」
「あはは、そうだね」
だがみのりは一番の笑顔を見知らぬ少女に向けていた。それは俺が見た事がないくらい曇りなく明るいものだったんだ。
俺はその事に得体のしれない虚しさを感じてしまう。だが今はそれを気にしてはいけない。たとえ上辺だけでも親友との再会を喜ばないと。
「じゃあとっととバスに向かうかー」
「その必要はないデス!」
つるぎが移動する前に見知らぬ少女はニコッと笑うと、どこからともなく走行音が聞こえバスが目の前に現れる。俺達は驚きつつも彼女に促され言われるがままバスに乗り込む事にしたんだ。