3-11 水と食糧を求めて
チュン、チュン。
スズメの泣き声とまばゆい朝日、それに凍てつく寒さにより俺の意識は覚醒する。
どうやらあまり深くは眠れなかったようだ。こんな状況で熟睡出来るほど俺は鋼の心臓を持っていないし。
時間はどれくらいだろう。いや、把握したところであまり意味はないけれど。
隣に視線を向けるとつるぎは俺にもたれかかり浅い寝息を立てている。そして彼女もまたゆっくりと目を開きうーん、と背伸びをした。
「ふぁあ。おう、ヒロ、おはようさん」
「ああ。よっこいせ」
俺は力を込めて立ち上がるが足がひどい筋肉痛だった。しかしよろめいた理由はそれだけではない。
何でもいいから腹に物を入れたい。喉も猛烈に乾いている。これ以上の断食は命に関わるだろう。
「腹減ったなあ」
つるぎは腹の虫を鳴らし無理に笑顔を作ってそう言った。彼女も飢えているはずなのに。
「ああ、取りあえず水となんか食えるものを探すか」
「おう」
俺達は廃屋を後にして市街地の散策を再開する。とにかくそろそろ水と食料を見つけないと……。
町を歩いていた俺は昨日つるぎが言っていた言葉を思い出す。
「そういやお前、タヌキを食べたらいいんじゃね、とか言っていたが野生動物を捕まえて食べるというのも選択肢の一つに入れるべきだろうな。生き物を殺すのは躊躇いがあるけれどもう手段を選んではいられないし」
「ああ。ただその場合野生動物を捕まえて、殺して、調理する必要があるけど。ただ小動物を捕まえるのって下手をすれば大きな動物を殺すより難しいからなあ」
彼女がそう言うと人の気配を察知した野ウサギが全力疾走で視界から消えていくのを遠目で発見してしまう。ウサギ肉は美味しいらしいけどあれでは近付く事も出来ないだろう。
「うぱー」
「ん?」
だがそんな時のそのそと歩く謎の生命体を発見する。それはウーパールーパーのように見えるが、サイズがオオサンショウウオ並みにデカいので可食部はとても多そうだ。
「なあ、ウーパールーパーって唐揚にすると美味いらしいぞ」
「えー。あの可愛い奴を食べるの?」
つるぎは抵抗があるようだが、そんな会話を聞いたウーパールーパーは怯えゆっくりと後退し、背を向けて逃走する。
「うぱー……」
しかし彼は全力疾走のつもりなのだろうが遅い、遅すぎる。これでは簡単に捕まえられてしまうだろう。
「そもそも炎と調理器具が無いとなあ」
「うん、それにちょっと可哀想だし」
俺達の慈悲によりウーパールーパーは無事に逃げ出す事が出来、建物の影に隠れてしまった。
「取りあえず水を探すか。火を入手する手段はまだ見つかっていないけど背に腹は代えられないし、腹を壊すリスク承知で最悪川の水を飲むか……?」
「ああ、このままだとあたしもヒロもどのみち死ぬからな」
だがそんな会話をしていると逃げ出したウーパールーパーが、またのそのそとこちらに戻ってくる。
「うぱー!」
「ん?」
彼はひどく怯え全力疾走で走っていた。やはり猛烈に遅いけれど。でもどうしてまたやってきたのだろう。
べちょん。べちょん。
しかしその時ひどく不快感を抱く、重く、ぬめりのある音が連続で聞こえる。それが何なのかを理解する前にウーパールーパーは瓦礫の隙間の中にいそいそと隠れてしまった。
「なあ、これ何の音だ?」
「さあ。だが多分やばい何かだ。ゾンビゲームとかならここで中ボス戦だな」
根拠はない。だがとても恐ろしいものが近付いている。生物としての本能が必死でそれを告げていたのだから。