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3-8 何者かの痕跡

 早速僕とナビ子ちゃんは施設内や周辺にある廃材をかき集める作業に入る。市街地エリアにある空き家も破壊し、廃材をバスに積んでそれ以外に飾りに使えそうなものも入手しておいた。


「ところでナビ子ちゃん。僕、お社の作り方なんて知らないけどナビ子ちゃんは知っているの?」

「知識としてはありますけど、素材と技術の都合で完璧に再現は出来ないでしょう」

「そっか。でも折角ならちゃんとしたものを作ってあげないとね」

「はい、そうしてあげましょう!」


 さて、空き家の解体作業をしよう。といってもすでに屋根や壁はなく多くが原型をとどめていないけどさ。


 僕は軽く力を込めてベキベキ、とベニヤ板を破壊すると身体に悪そうな大量の埃が舞ってしまう。番組のリフォーム企画でよく見る光景だけど実際やってみるとかなり目が痛くなって息苦しくなってくる。


「ケホ、ケホ」


 案の定僕は咳き込んでしまった。ロボットのナビ子ちゃんは平気そうだけどこれは人間にはちょっとキツイ。見かねた彼女はすぐにボロ布のようなスカーフを渡してくれる。


「あ、みのりさん。これをマスク代わりに巻いてはどうでしょう。多少はマシになるかと」

「うん、ありがとう」


 僕はスカーフで口元を覆い改めて作業を続行する。だけど数百年単位で放置された家屋からは使えるものはそんなに見つからなかった。


「うーん、これも雨で腐ってる。やっぱりほとんどがダメになっているみたいだ。木材だけが欲しいのならその辺に木があるにはあるけど……」

「その場合乾燥させなければいけませんからね。天然乾燥なら半年くらいタコさんに待ってもらう必要があります。ワタシならばそれくらい待てますけど、その間ずっとお家が無いのは可哀想デス」

「急がば回れにも限度がある、か。いっそ石の祠にしてもいいだろうけど」

「ええ、そういう方法もありますね。それで石を加工する道具や技術はどうしましょう。私のブレードでも出来ない事はないデスが」

「うん、大人しく廃材を集めたほうが早いかな」


 いろいろ案を出したけど結局はその結論に落ち着いてしまう。地道にやるしかないみたいだ。


「何か使えそうなものはないかなー」


 僕は周囲の物を拾って手に取ってみる。だけど多くがガラクタばかり。触れば崩れ落ちるほど多くの物質は劣化していた。


「あれ」


 だけどその中にキラリと光る物を発見してしまう。何だろうと思って手に取った僕はその未知の物質に唖然としてしまった。


「どうしたんデス、みのりさ……ッ!?」


 気になってそれを見たナビ子ちゃんもまた言葉を失ってしまった。


 僕が手にしたそれはドクロの水晶や飛行機の模型といったオーパーツでもなんでもない物だ。


 その物体はかすかに中身が残った錆びついていない真新しい缶コーヒーだった。その辺の自販機で入手出来るどこにでもあるものである。


 だけどこれはあり得ない。


 この缶コーヒーの存在が意味する事実。それはただ一つだ。


「まさか……つい最近まで誰かがここにいたって事?」

「そのようデスね……」


 今まで僕はこの世界に来て一度も人間と会った事はなかった。この世界に人類は僕ただ一人というその前提が大きく変わり震えが止まらなかったんだ。


「見たところつい最近飲まれたと思う。賞味期限は……僕が死んだ六、七年後くらいかな。つまりこれはこの世界で作られた物じゃないみたいだ」

「ええ、さすがに数百年前の缶コーヒーを飲む人はいないでしょう」


 僕はゴクリ、と唾を飲み込み暴れる心臓を落ち着かせる。落ち着け、落ち着け、落ち着け!


「みのりさん、きっとこのコーヒーを飲んだ人はすぐ近くにいると思います。探してみましょう!」

「わ、わかった!」


 僕の心の中にあるのは喜びの感情だけではない。その多くを占めていたのは恐怖だった。


 もしかすればようやく手に入れた平和な世界を壊されてしまうかもしれない。危ない人だったらどうしよう。


 だけどその人たちを探さなきゃ。そうしないときっとものすごく後悔するだろうから。

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