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1-4 終末ライフのスタート

 ガツガツガツ。僕は必死で栄養を補給し思わず涙が流れてしまう。


 なんて温かくて、美味しい食事だ。


 それは僕がずっと求めていたものだった。それを見ていた女の子は不思議そうに笑って訊ねた。


「泣くほど美味しいんデスか?」

「ううん、なんていうかその……こういうの、久しぶりだったから」

「そう、デスか」


 僕は涙を拭ってそう答えると、女の子も優しく微笑んだ。


「ワタシも誰かと楽しくごはんを食べるのは久しぶりデス。ワタシはずっと独りぼっちでごはんを食べていましたから」

「ずっと?」

「はい、ずっとデス」


 それはどのくらいの期間なのだろうか。見た感じ彼女は高校生くらいだけど……そもそもどうみても普通の女の子なのにどうして彼女はこんな過酷な世界で生き延びる事が出来たのだろうか。


 僕はその事に違和感を抱いたけれど、質問を続けた。


「ずっと、ってどれくらい?」

「数百年くらいでしょうか。データが損傷しているためハッキリとはわかりませんが」

「す、数百年?」


 けれど女の子の口からそんな単語が飛び出たので僕は驚いてしまう。そんな僕の顔を見てああ、と女の子は笑って言葉を付け加えた。


「ああ、ワタシはロボットなんデス。だから人類が滅んでもこうして生き残っているわけでして」

「そ、それはまた。いろいろとまたすごい単語が出たね」


 それは人類が滅んだ、というのが霞むくらいのインパクトがある単語だった。彼女は駄目押しに信じさせるために左腕をガシャンガシャンとガトリングに変形させる。


「まあこんな感じでロボットなわけデス」

「へえ、すごいね」


 僕は呆気にとられてしまいそんな言葉しか出なかった。こんなものを見せられてはその突拍子もない話も信じざるを得ない。


 いかついガトリングアームはまたすぐに繊細なか細い少女の腕に戻ってしまったけどどういうふうになっているのかな。原理が全くわからなかった。


 でもこんなものを装備しているなんて彼女はどんな用途を想定して作られたのだろう。見た目は普通の女の子なのに。


 もっと言えば、そんな彼女がいるこの世界で一体何があったのだろうか。何があって彼女のような兵器が必要とされるような状況になったのかな。


「長く生きているといろんな事を忘れてしまうわけデス。ワタシも昔、こうして誰かと一緒にごはんを食べた気がするんデスけど……」


 そう言った時ずっと笑っていた女の子は切なそうな顔になってしまった。その消え入りそうな顔を見てしまい僕は思わず、


「あ、あの!」


 と、叫んでしまった。


「はい」


 僕はそのあとすぐに発言しなかったので女の子は不思議そうな顔になる。その先に続く言葉を言っていいものか僕は悩んでしまった。


 出会ったばかりの女の子と友達になれるほど僕は社交的じゃない。でも、どうしてかわからないけど僕は彼女の事を放っておく事が出来なかった。


 それは本当に彼女のためなのかはわからない。本音では寂しいのは僕のほうなのかもしれない。少し優しくされたくらいで勘違いしただけなのかもしれない。


 けど、やっぱり言わないと!


「その、もうしばらく君と一緒にいていいかな。厚かましいようだけど、この世界で僕は自分の力で生きる事が出来ないから」


 僕は体よく理由をつけてそう言った。


 女の子は目をパチクリとさせていたけれど、ぱあっと明るい顔になり、


「もちろんデス!」


 と、満面の笑顔でそう返事をしたんだ。そして、あ、と思いだしたようにこう告げる。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。ワタシはナビ子って言います!」

「僕は鈴木みのり。よろしくね、ナビ子ちゃん!」


 こうして滅んでしまった世界で、僕たちは友達になったんだ。


 それが、僕とナビ子ちゃんが出会った初めての記憶だった。


「取りあえずずっと歩き続けてクタクタだと思いますし、今後の事は後日改めてお話しするとして今日はゆっくり休みましょうか。ハーブティーを淹れてあげますね」

「うん、本当にありがとう!」


 ずっと孤独だった僕は優しすぎるナビ子ちゃんにすっかり心を奪われてしまった。お互い笑顔だったけれどそれはもしかしたら健全な関係じゃないかもしれない。


 けれど僕は残酷にも彼女を求めてしまった。その優しさに甘えてしまったんだ。


 そして僕とナビ子ちゃんの、世界で二人ぼっちの終末ライフがスタートした。



 楽しい時間はあっという間に過ぎ次第に日は暮れてしまう。梨の歴史館の大広間で僕とナビ子ちゃんは星空を見上げながら一つの布団に寝そべっていた。


「えと……どうして同じ布団で寝ているのかな?」

「一つしかありませんから。それに引っ付けば温かいデスよ?」


 僕の左側で寝ていたナビ子ちゃんはふにゃふにゃととろけるような笑みをして、僕にすり寄ってくる。


 彼女の柔らかな身体の温もりに、すべすべとした絹のような肌の質感に、同じ女の子なのに僕はドキドキとしてしまった。


「そうかもだけど、悪いよ。僕は床でもいいからさ」

「もう、お客さんにそんな事出来ませんよ」

「うーん、そう。ならご厚意に甘えて」


 僕は戸惑いつつも、疲労がたまり久しぶりの布団の心地よさにうとうととしてしまった。遠慮はしていたけれど内心布団で眠たかったしナビ子ちゃんに感謝しないと。


 布団はボロ布同然だったけれどあるとないとは大違いだ。硬い床にほぼ直接寝ているわけだから、ちょっと痛いけど文句は言わないさ。


「それにしても綺麗な星空だなあ」

「はい」


 僕はそのあまりの美しさに見惚れてしまう。


 文明によって汚されていないありのままの夜空はこんなに美しかったのか。満天の星空を見ていると、自分が宇宙の一部になって世界に溶けてしまうような感覚に陥ってしまう。


「こんな美しいものが見れるのなら終末の世界も悪くないかもね」

「そうデスねー。この世界にあるのは絶望だけじゃないんデス」


 ナビ子ちゃんは囁くようにそう呟き、しばらくしてからすうすうと寝息を立てた。どうやら眠ってしまったらしい。寝るのが早いけどロボットだからなのかな。


 僕も意識が夜の闇と混ざり合ってどんどん遠のいていく。飢えとも孤独とも無縁なこの世界に来て初めての安らかな眠りに僕はすべてが満たされてしまったんだ。

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