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3-7 タコの神様からのお願い

 翌朝、僕たちはバスから降りて目ぼしい物資を入手しつつぼちぼち帰り支度を始めた。僕は一夜干しを回収しながらホクホクとした笑顔のナビ子ちゃんに話しかける。


「折角鰈浜まで来たけど、やっぱりここにも何もなかったね」

「何を言っているんデスか。美味しい魚が手に入ったじゃないデスか!」

「ナビ子ちゃんの記憶とついでに僕が元の世界に帰る方法だよ」

「あ、ああ、そうでしたね」


 ナビ子ちゃんは表面上ではガッカリしていたけど僕たちは知っている。どちらも本気でそれらの情報を探すつもりがない事を。まあナビ子ちゃんは知りたくても見つからないと思っているだけであって僕とは違うけど。


 だけど僕はナビ子ちゃんの記憶を。ナビ子ちゃんは僕が元の世界に帰る方法を。お互いがお互いのために頑張っていたんだ。


 ただそうは言ってもここには何も情報がなかった。いたずらに滞在して物資を消耗するのも建設的ではないしさっさと次の場所へ向かうとしよう。


「ちゅるるー……」

「ん?」


 だけど聞き覚えのある情けない声が聞こえて、僕は思わずその方向に視線を向ける。


 昨日見つけた犬小屋のような社。その前に僕が釣り上げた緑色のタコが立っていてしょんぼりとした目でそれを眺めていたんだ。


「おや、あれは昨日のタコさん。あの顔はどうやら困っているみたいデス」

「僕にはタコの表情がわからないけどナビ子ちゃんがそう言うのならそうなんだろうね。話しかけてみる? コミュニケーションがとれるかどうかわからないけど」

「そうしましょうか。出発までまだまだ時間はたくさんありますから。旅先で出会った人との触れ合いも旅の醍醐味というものデス」

「タコだけどね」


 僕たちはてくてくと歩き緑色のタコに話しかける。日本語でいいのかな。


「えと、どうしたの、タコさん」

「ちゅるー」


 そう尋ねるとタコは足でちょんちょんと社を指差した(?)。


「ちゅるるー!」


 そして彼はピョン、と社の上に飛び乗り全力でわっしょい、わっしょいと喜ぶ仕草をする。


「ちゅるっ!?」


 さらに驚いたジェスチャーをして、くるくると回転しながら社の上からぺちょんと転げ落ちて目を回し、べちょんと地面にへばりついて死体の様になってしまった。


「えーと」


 どうやらこのタコは何かを伝えようとしているみたいだけど僕はイマイチよくわからなかった。だけどナビ子ちゃんはうんうんと深く頷いている。


「成程、あなたはこのお社に祀られていた神様で人々に信仰されていましたが、ここから人がいなくなり、嵐でお社が壊れ力を失ってしまったという事デスね。力を取り戻し少しでも長くこの町を護りたいからお社を修理してほしいと」

「ちゅるる!」

「何で当たり前のように伝えたい事がわかるの!?」


 僕は驚愕するけど緑色のタコが喜んでいるあたり正解なようだ。タコとも意思疎通が出来るだなんてナビ子ちゃんは凄いなあ。


 でもちょっと可哀想だな。大して用事が無いのに長居をし過ぎるのも問題だけどどうしよっか……。


「うーん、事情を知ってしまった以上放ってはおけません。みのりさん、ここはタコの神様のためにお社を修理してあげませんか?」

「え、僕はいいけど」


 人のいい彼女はタコの神様のために行動する事を選択する。自分の都合で迷っていた僕とは大違いだ。背中を押されるように僕が同意すると彼女とタコの神様は手を叩いて喜んだ。


「ちゅるー!」

「そう来なくっちゃデス! 早速使えそうな素材を集めましょう!」

「ふふ、そうだね」


 何にしたってこの世界での毎日は基本的に暇だ。たまにはこういうイベントも悪くないだろう。それにナビ子ちゃんが喜ぶ顔をもっと見たいし。


 そんなわけで、僕は突如として発生したクエストをこなす事になったのだった。

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