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3-6 横文字でオシャレな終末キッチン

 僕らはバスに戻り早速ナビ子ちゃんが手に入れた魚の加工を始める。ナビ子ちゃんはテキパキと処理をした後、タイやカレイをかごに入れて吊るし干物にしていった。


 一方の僕はヒラマサやヤリイカをさばいている。本当は醤油があれば刺身にする事が出来て一番美味しく食べられるんだろうけどさ。


「うう」


 ぐにゅ。イカから内臓を取り出すのは何度やっても慣れない。僕は捨てようと思ったけどナビ子ちゃんが慌てて待ったをかける。


「内臓はちゃんと捨てないでとっておいてくださいね。冷蔵庫に一週間くらい入れたら美味しい塩辛が完成するので」

「うん、わかった。けどバスの冷蔵庫も随分と物持ちがいいよね。数百年経っても使えるなんて。電化製品は数年で壊れるのが普通なのに本当に凄いよ。これがメイドインジャパンの技術力なのかなあ」

「うーん、多分違うと思います」

「だろうね。あの冷蔵庫を作ったのは少なくとも普通の日本企業じゃないだろうし」


 この世界にはいろんな謎があるけどやはり一番の謎はナビ子ちゃんとバスだろう。人工知能に変換効率が異常なソーラーパネル、常軌を逸した耐久性能。それはどれもオーバーテクノロジーでバスにある物だけで何個もノーベル賞が獲れるのではないだろうか。


 さて、ヒラマサはどうしよう。刺身にして食べてみたいけど醤油がないからなあ。それにこのご時世、生魚を食べるのは勇気がいるし大人しく火を通してみよう。


 といっても素材が限られているし出来るのはムニエルくらい。胡椒と小麦粉をまぶして、フライパンにバターを引いて焼いてと。


 ちなみに炎は薪と金網の台を使った直火焼きだ。少し調理にはコツがあるけど慣れればどうという事はない。


 バターに使う牛乳はそのへんを歩いている牛さんから干し草と交換で貰ったよ。気性が荒い場合はそのままバトルに突入しちゃうけど大体はのんびり屋で無害な生き物だ。


「ぶもー」


 今もちょうど視界の先、バリケードの向こう側でのんびりと草を食んでいる茶色の牛さんがいる。なんかぽけーとした顔に似つかわしくない凶悪な角が生えてるし、僕の知っている牛とはちょっと違うけどさ。


 ヤリイカは適当にそのへんで手に入れたキノコや、畑で育てたトウガラシ、白ワイン、そして小豆島で入手したオリーブオイルをぶっこんでアヒージョに。


 補足するとこのワインはナビ子ちゃんが鳥取で作られていたワインを再現したものだ。冷静に考えてみればこの白ワインって数十年寝かせたヴィンテージものだからきっと味のわかる人にはたまらないものなのだろう。でもドバドバー、っと容赦なく調味料に変えちゃうよ。


 これらの食材はナビ子ちゃんが白倉に作ってくれた広大な畑から生み出されたものばかりだ。畑は極力自然に任せ、ある程度手を加えなくても大丈夫なように工夫はしてあるけど、やっぱりそれにも限度はあるから遠出はしにくいよね。


 ま、突き詰めると旅を終わらせたくないがためのただの言いわけかもしれないけどさ。


 とにかく料理が出来上がる。余計な事なんて考えずに食事を楽しもう!


「さあ、ヒラマサのムニエルに、ヤリイカのアヒージョだよ!」

「おお、なんだか横文字がとってもおしゃれデス!」


 一夜干しの作業を中断しナビ子ちゃんは素敵な笑顔で完成した料理を眺める。釣りで活躍出来なかった分料理で活躍出来てよかったよ。


「うんうん、我ながら自信作だよ。冷めないうちに食べようか」

「はーい!」


 そして簡素な折り畳み式の椅子に座り僕たちは青空のレストランで料理を堪能する。まずはこんがり焼けたムニエルから。


「はむはむ」


 カリ、サク、そしてふわっ。衣の心地よい食感のあとにふっくらとしたヒラマサの身を堪能する。脂がのってとてつもなくジューシーだ。こんな美味しいものに余計な調味料は必要ない。味付けを塩胡椒だけにして正解だったよ。


 続いてイカのアヒージョも。なんて肉厚なイカなのだろう。ピリッとした刺激的な辛さがいいアクセントになり濃密なオリーブの香りが食欲をそそる。ナビ子ちゃんはアヒージョをいたく気に入り、天にも昇るような表情になった。


「むほほ、たまりませんデス~」

「えへへ、そんなに喜んでもらえてうれしいよ」

「はいデス! ワタシとみのりさんはこれからもずっ友デス! なのでワタシのために毎日美味しいごはんを作ってください!」

「それはどちらかというとプロポーズの台詞な気もするけどね」


 ナビ子ちゃんが僕の分までアヒージョを平らげてしまう前に僕は急いですちゃちゃ、と小皿に取り分けた。幸せそうに食べてくれるのは嬉しいけど少しばかり食欲旺盛すぎるのが玉に瑕なんだよね。


 僕はナビ子ちゃんと食事を楽しんだ後一夜干しを作る作業を手伝う。そうこうしているうちにあっという間に日没になってしまいその日の活動は終わってしまったのだった。


 充実しているとこんなに時間が経つのが早いんだね。カレイの一夜干しはどんな味なんだろう。食べるのが楽しみだなあ。

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