3-5 魚釣りとタコの神様
そしてカメラをセッティングして僕はナビ子ちゃんと一緒にゆうひパーク鰈浜の近くの港で竿を垂らしているわけだけど、初歩的な疑問を抱いてしまう。
「今は秋ぐらいだけど、そもそもこの時期は何が釣れるの?」
「はい、カレイもそうデスがヤリイカやタイが主に釣れますね。もちろん未利用魚と呼ばれるものでも美味しいものはありますが」
「へー」
僕は軽く脳内にインプットしてのんびり竿を垂らし続けた。食べる事が出来れば何でもいいけどやっぱり美味しいカレイを釣りたいなあ。
さて、後は待ちだ。のんびりとねー。
待つ。
待つ。
待つ。
待つ。
待つ。
「釣れないねー」
けれどいくら待てども待てどもどちらの竿にも全然反応がないので僕はぼやいてしまった。釣り方が悪いのかな。
ただまあ時間はいくらでもあるから焦る必要はないだろう。最悪釣れなくてもまだ食糧には余裕があるし。
「むむ」
けれどナビ子ちゃんは眉間にしわを寄せてゴゴゴ、という効果音とともに黒い炎のエフェクトが発生している。あーあ、また始まっちゃったか。
「埒があきません! ちょっくら素潜り漁をしてきます!」
「行ってらっしゃーい」
ナビ子ちゃんはマッハで競泳水着に着替えてかごと銛を装備してそのまま海の中にダイブしてしまった。今は秋なのに見ているだけで寒くなってくるよ。あと少しは羞恥心を持とうね。
「ロボットが素潜り漁ねぇ。最先端なのかアナログなのかよくわからないなあ」
僕はおかしくてクスリと笑ってしまう。だけどこれで必ず食事にはありつける。こっちは文明的な方法で釣りを楽しむとしようか。
待つ。
待ってみる。
もっと待ってみる。
もっともっと待ってみる。
そして、それから数十分後。
ビクン! 突如として勢いよく竿がしなり海に引っ張られそうになる。どうやら獲物がかかったみたいだ!
「お、何かな~!」
初めての獲物だからこの際食べられれば何でもいい。でも、どうせなら大きくて美味しい魚を釣ってナビ子ちゃんに自慢したいな。
でもこれはなかなかの大物だ。相手は力強く竿を引っ張りどうにか逃げだそうとする。けど僕もこの終末ライフで釣りのスキルが玄人並みになっているんだからね!
ザブン! そして僕の身体は後方に反り、獲物を海中から見事釣り上げた!
「ちゅるるー!」
「へ?」
だけどその獲物は放物線を描き僕の後ろ側のコンクリートの地面に落下してぺちょんと音を立ててしまう。おそるおそる振り向くとそこには緑色のタコがいたんだ。
「ちゅるるー」
「……あ、ども」
僕は取りあえず挨拶をするけどそのタコはひどく怯えた目をして、後ろに下がってしまう。
それとほぼ同時に背後の海から素潜りロボットがトビウオの様に飛び出してきた。彼女は背中のかごにたくさんの魚を入れて大層ご満悦のようだ。
「ふー、大漁デス! みのりさんは釣れましたか?」
「釣れたには釣れたけど」
「ちゅるるー……」
僕が困惑しながらそう言うとナビ子ちゃんも緑色のタコを認識し、ふむ、と険しい顔になってしまう。見つめられたタコはさらに増えた捕食者に涙目になっていた。
でも何だろう。サイズ的には子犬くらいだしつぶらな目とかちょっぴり可愛いかも。
「焼いたら食べれますかね?」
「お腹壊すと思うよ。仕方ないからリリースしようか。ごめんね?」
「ちゅるるー!」
僕は優しく声をかけて緑色のタコを持ち上げると、助かると理解し手を挙げて喜ぶ仕草をする。見た目は可愛いんだけど触るとぬるぬるしてちょっと気持ち悪いなあ。でも癖になるような。
「はい、今度は釣られちゃダメだよ」
「ちゅるるー!」
ぱちゃん。緑色のタコは元気よく海に飛び降りて、その緑色の影はあっという間に海の中に消えてなくなってしまった。
「さあ、それでは早速料理をしましょうか! 全部は食べきれないので干物に加工する必要もありますし、みのりさんも手伝ってください!」
「うん、わかった」
気を取り直し僕たちはごはんの支度をする。干物作りのやり方は知らないけどナビ子ちゃんの指示に従えばなんとかなるだろう。さて、新鮮なうちに急いで作業をしないとね。