3-2 時が止まった博物館
バスは壊れたアスファルトの道路をガタンゴトン、と元気よく進み次なる目的地へと向かう。そして遠目でもわかる明らかに異質な建造物を発見した。
「おお、あれはもしや古代文明のピラミッドデスか!?」
「へえ、まだ残ってたんだ」
それは鉄骨で作られたガラス張りの三角形のピラミッドで、人類が滅亡してから長い年月が経っていたというのに今でも変わらず残っていた。当時は近代的な建物でも数百年後に生きる僕たちからすれば歴史的な建物と何ら変わりはない。
「確かここは砂にまつわる博物館だったはずだよ。鳥取とネタ被りをしていたからよく覚えているよ」
「ふむふむ、なんだか面白そうデス。では早速行きましょう!」
「うん、わかった」
ナビ子ちゃんも興味津々ではしゃいでいるし異論はない――と言いたいところだけど、建物に近付きピラミッドの姿をはっきりと認識して僕はほんのり後悔してしまう。
美しかったピラミッドはほとんどのガラスが破損し見るも無残な姿になっている。さすがに長い年月による風化には耐えきれなかったらしい。
盗掘者を拒むトラップの様に足元には大量の割れたガラスが散乱している。少し転んだだけで大怪我をしてしまいそうだ。
「怪我しないように、気を付けてくださいね」
「う、うん」
足元の悪い中、僕はナビ子ちゃんと一緒にドアがあった場所から侵入する。元々ガラス張りだったけどそのガラスすらも無くなり博物館はとても開放的になっていた。
パキ、バキ。ガラスを踏み砕く音が少しだけ恐ろしい。
室内に入ってすぐ、僕らは圧倒的な存在感を放つそれを目の当たりにした。
「わあ……」
その光景に僕らは思わず息を飲んでしまう。
植物が生い茂った室内の中央には太陽に照らされ光り輝く巨大な砂時計が宙に吊るされ、ただそこに存在していたんだ。
砂は全て落ちている。砂が落ちきって一年が経てば本来は機械の力でまた逆さまになるのだろうけど、役目を終えてしまった砂時計は時を刻む事はなく朽ち果てるのを待っていた。
「綺麗デスね……」
「うん……」
これほどまでに美しい絶望があるだろうか。僕はそれを見て改めて世界が滅んだのだと実感してしまった。
「これがジャパニーズ・ワビサビという奴デスか。ロボットのワタシにもこれが素晴らしいものだとわかります。ちょっぴり悲しい気持ちになりますけど」
「うん、僕もだよ」
どうしようもない虚無感に、僕たちの口数は少なくなってしまう。
僕もまた時が止まったままそのまま立ち尽くしていたけど、不意にナビ子ちゃんが、
「この辺で行きましょうか」
と、優しく微笑みながら言ってくれたので僕は思わずハッとしてしまった。
「そうだね」
僕はナビ子ちゃんとともに博物館を後にする。僕たちはまだ足を止めるわけにはいかないから。
そして博物館には朽ちた砂時計だけが残された。砂時計は植物と光に包まれ、再び安らかな眠りについたのだった。