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3-1 鳴砂の浜辺で戯れる少女たち

 ――鈴木みのりの視点から――


 キュッ、キュッ、キュッ。


 果てしなく広がる澄み切った透明な秋の海。寄せては立つ白波の音の中に楽しそうな足音が混じる。機械仕掛けの天使は素足ではしゃぎ、白い砂浜を踊るように踏みしめていた。


「ううむ、砂浜で裸足はなんとも言えない気持ちよさデス! みのりさんもやってみてはどうデスか?」

「僕はいいよ、はしゃぐような年でもないしさ」


 全力で終末の自然を楽しむナビ子ちゃんに僕は苦笑交じりでそう言うと、彼女はむう、と頬を膨らませてしまう。


「何でロボットのワタシが人間さんであるみのりさんよりも情緒豊かなのデスか。もうちょっと終末ライフを楽しみましょうよー」

「うーん、ならちょっとだけ」

「そうこなくっちゃデス!」


 根負けした僕はしぶしぶ靴と靴下を脱ぐと、ナビ子ちゃんはるんたったと砂浜を駆け回って場を繋いでくれる。僕にはあそこまで楽しくは出来ないだろうけどさ。


 素足で砂浜を踏むと指の間にひんやりとした砂が入り込み、不快と快感が入り混じった複雑な感触がする。


「ほれ、素足で駆けて! アイドルのミュージックビデオみたいに!」

「はいはい」


 そして裸足になるやいなやナビ子ちゃんはとてて、と近付き手を掴む。僕は少し戸惑いながらも彼女と一緒に砂浜を駆け回り意味もなく楽しい気分になってしまった。


「アイドルのミュージックビデオかあ。どう足掻いてもナビ子ちゃんには負けるけど。僕はそういうキャラじゃないしさ」

「またまたご謙遜を! みのりさんの愛くるしさは世界一デス!」


 ああもう、どうしてナビ子ちゃんはこんな恥ずかしい台詞を臆面もなく言えるのかな。どうやら人間とは羞恥の感覚が違うみたいだ。


「お世辞はいいよ。僕はアイドルというよりもボーイッシュでクールビューティー路線だったからさ。おかげで女性ファンも多かったんだ」


 僕は照れくさくなって顔を背けながらこう言った。だけどその発言を聞き、彼女はなにやら妙な事を考え出してしまう。


「なるほどー。デスがそういう路線のアイドルもありかもしれません。可愛さとカッコよさを融合させる、ええ、これは売れるデス! さあみのりさん、ワタシが衣装を作るので今度アイドルソングメドレーを歌ってみませんか!」

「しないから!」


 それはまるで母親が幼い我が子をちやほやする様に根拠がなく、そして嬉しくてたまらないものだった。


 そんな恥ずかしい企画はご遠慮こうむりたいけど、やっぱり友達に褒められて嬉しくないわけがないだろう。


 さて、少し説明が遅れたけど僕たちは今ナビ子ちゃんの記憶を探すため、島根県の中部のあたりをうろちょろしている。


 ここは鳴き砂と呼ばれる音が鳴る砂が有名で、さっきからこんな風に僕たちはキュッキュッと踏みしめ海辺の砂浜でじゃれ合っているわけだ。


 うん? 僕が元の世界に帰る方法は見つかったのかって? ああ、そういう目的もあったっけ。毎日が楽しくてすっかり忘れていたよ。


「でも琴の音はしないな」

「琴、デスか?」


 唐突に僕がそんな事を言ったので彼女は不思議そうな顔をしてしまう。そんなナビ子ちゃんに僕はある昔話をした。


「ここには琴姫伝説って言う話があってね。琴が上手な平家のお姫様がこのあたりに逃げてきて、彼女が死んだ後にこの海辺の砂は琴みたいな音が鳴るようになったんだって。でもこれは琴の音色じゃないよね」

「デスねぇ。ちょっと無理があると思います」


 キュッ、キュッ。ナビ子ちゃんは砂浜を踏むけどその音は琴の音色とは似ても似つかない。


「でもいい音デス。きっと琴姫さんは下手っぴでも音楽が大好きだったんデスね!」

「はは、かもね」


 けれど耳をくすぐるようなそれはむずかゆくも心地よい音だった。海を独り占めしていた僕たちはその後も飽きるまでじゃれ合っていたんだ。

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