2-23 繋がる二つの世界
公園を離れた俺は何も考えずに歩き続け、気が付くと白壁土蔵群エリアにある神社に立ち寄っていたわけだが……。
「やっちまったなあ」
賽銭箱の近くに腰掛けて俺は自己嫌悪に陥っていた。今回の口論はどっちもどっちなのだが、何にしたって随分と酷い事を言ってしまったものだ。
みのりだけでなく、つるぎまでも失ってしまえば俺は本当に独りぼっちになってしまう。何をやっても上手くいかない現実に俺は疲れ切っていたんだ。
こういう時、みのりならどんな励ましの言葉をかけてくれるのだろうか。
昔は三人のうち誰かが喧嘩したら残りの一人が仲裁に入るからすぐに仲直り出来た。だが今は……。
俺達の関係は震災があったあの日から壊れてしまったのだ。今回の一件は歪な関係のままずっと放置していたツケがいっぺんに来てしまったに過ぎない。
「みのり……」
俺はスマホを操作し、動画サイトを立ち上げる。
けれどそこに彼女はいない。サイトにはいつものように意味なんて存在しない馬鹿馬鹿しいやってみた動画が転がっているだけだ。
結局あれは都市伝説に過ぎなかった。
みのりはもう死んでいるんだ。
だから現実を見ろ。
最初から俺にはみのりを救う事なんて、出来なかったんだ。
「畜生……ッ!」
俺はボロボロと涙を流してしまう。ただただ、無力な自分が情けなくて。
そして俺は願ってしまう。幻でもいいからもう一度親友に会いたいと。
その時――。
「?」
スマホの画面が突如として歪む。俺は指で触ってみるが一切の操作を受け付けなくなり閉じる事も出来なくなった。
「なんだこれ、ウィルスか?」
俺は一瞬冷や汗が流れてしまう。けれどいきなり再生された動画を見てその汗は一瞬にして蒸発してしまった。
『釣れたどー!』
『おー、上手だね、ナビ子ちゃん』
「え……」
そこはどこかの港。二人の少女が楽しく釣りをしているなんてことない風景だ。強いて妙な部分を言うのならばその港は朽ち果て、長らく放置されていたであろう事が容易に想像出来る事くらいだろうか。
『ふっふっふ、今日は宴会デス!』
『これだけ釣れたら干物にするのもいいかもね』
いや、動画の内容はどうでもいい。その中に映っているショートカットの少女に俺は見覚えがある。いや、見間違えるはずはない!
「みのり……!」
俺は思わず立ち上がり砕きそうなほどの力でスマホを両手で掴み画面を凝視する。そこには確かに病院で眠り続けている俺の親友、鈴木みのりがいたのだから!
あの都市伝説は作り話じゃなかった。みのりは生きていた!
「ヒロッ! その、さっきは!」
神社の境内に泣きはらした顔のつるぎが現れる。多分先ほどの事を謝りたかったのだろうが、申しわけないが今はそれどころではなかった。
「って、どうした……!?」
スマホの画面が発光し俺達は目が焼けるほどの光に包まれる。もうどうなってもいいほどに喜びの絶頂にいた俺は、何が起こっているのか思考する事も出来なかった。
その数秒後。
神社から、二人の人間がこの世界から消滅した。
そして感情を持たない秋風は木々をざわざわと激しく揺らし、赤く染まる楓を舞い上げ秋晴れの空へと昇っていった。