1-3 二人ぼっちの謎鍋
ぐぅー。
「わわ」
けれど安心したせいか僕のお腹が鳴ってしまう。女の子はそれがおかしくて笑ってしまい、こう切り出した。
「お腹減っているんデスか?」
「う、うん、何日も飲まず食わずで」
「そうデスかー、ではまずはごはんにしましょうか!」
「え? い、いいの!?」
ようやく飢えを満たす事が出来る。緊急事態のため僕は遠慮する事を忘れ歓喜してしまった。
「はい、簡単なものしか出来ませんけど。ちょっと時期じゃないデスがお鍋でいいデスよね?」
「う、うん、食べられるのなら何でもいいよ!」
女の子はその場を移動しキッチンらしきスペースへと移動する。
僕は手伝おうとしたけど、彼女の言うとおり野菜や肉を切って鍋に入れて煮込むだけなのですぐに料理が出来上がってしまった。
僕たちは大樹の前で木製のテーブルを囲み丸太の椅子に座った。中央には土鍋があり、とても美味しそうな味噌の香りが鼻腔を刺激する。
「粗茶デスが、煮沸しているので安全デスよ。ぬるめにしておきましたので」
「ありがとう……!」
料理を食べる前に僕は彼女が淹れてくれたお茶をグビグビと飲む。鉄製のコップに入れられたお茶は麦茶のように茶色かったけどなんのお茶なのだろうか。
僕の喉の渇きは荒涼とした大地に雨が降り注ぐように瞬く間に癒された。たった一杯のお茶でこんなに幸せな気分になれるなんて!
もう二杯目も喉に注ぎ少女はふふ、と笑いながら木のお椀に料理をよそってくれる。
「はい、どうぞ、たんとお食べ、デス」
「う、うん!」
おばあちゃんのように優しい声を聴きながら僕は箸で掻きこむように食事をする。人前だけどマナーなんて関係ない。僕は一心不乱によくわからない野草やキノコ、何かの肉を味噌の汁とともに貪った。
空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。そのすべてが僕の血肉となり、そして生きる活力となる。名前も知らないその鍋は今までで食べた料理の中で最も美味しかったと断言出来た。
「美味しいよぉ……!」
はふ、はふと温かな息を吐き出し僕は心の底からこの料理を堪能した。女の子はそんな僕を微笑ましそうに眺めていたんだ。
「そこまで美味しそうに食べてくれてワタシも嬉しいデス。さて、早速ワタシもいただきましょうか!」
女の子もまたお椀によそってもしゃもしゃとシャキシャキの野草を咀嚼した。それは彼女にとっても満足のいく出来だったようで実に幸せそうな顔になってしまう。
「うん、味噌とお出汁がいい感じデス!」
「そうだね! ところでこれって何が入っているの?」
「そのへんで拾った野草やキノコとかイノシシさんのお肉デス。この町は食べるものには不自由しませんからね! お腹が減ったらシカさんとかもありますから!」
「そ、そう。ある、じゃなくて、いる、だと思うけど。なかなかサバイバルの知識があるんだね」
自慢げにそう言った彼女に僕は少なからず戸惑ってしまった。野草やキノコはともかくこんな女の子がイノシシなんてどうやって捕まえたのだろう。大型の罠でも仕掛けたのかな?
「でもサバイバルの知識があればこんな思いもしなくてよかったのかな。うーん、もう少しアウトドアに親しむべきだったよ」
「そうデスねー。けど今までどうやって生きてきたんデスか? この世界は基本自給自足でしょう?」
女の子は不思議そうに尋ねたので、僕は困った顔をしてこう返事をした。
「変な話かもしれないけど、僕はこことは違う別の世界で一度死んで、気がついたらこの世界にいたんだ。僕の世界とよく似ているこの世界に……いや、自分でも何言っているのかわからないし状況からそう判断した仮説だけどさ」
「ふーむ、異世界転生という奴デスか。フィクションの世界ではよくありますけどねー」
やはり女の子もまた僕と同じように半信半疑だった。僕自身が信じていないのだから彼女はなおの事だろう。
「ま、難しい話はあとにしましょう。ごはんが冷めちゃいます」
「うん!」
その提案に僕は全く異論がなかった。今は何よりもこの飢えと渇きを満たすとしよう。