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2-15 血塗られた日常

 そして俺は今日も重役出勤で遅れて学校へと向かう。


「ふわああ」


 大きなあくびを一つ。夜通し頑張ったが結局目当ての動画は見つからなかった。しばらくはこんな生活が続きそうだが気長に頑張るとしよう。


 当然だがこんな時間に歩いている高校生はいない。もういっそ学校に行かずにパソコンに噛り付いたほうがいいかな。


「ん」


 しかし前方に項垂れて歩く同じ学校の制服を着た男子生徒を発見する。あいつも遅刻なのかね。


「ぴーひゃら、ぽんぽん。ぴーひゃら、ぽんぽん……」

「?」


 そいつはそう呟いた気がしたがここからでははっきり聞こえない。しかし目がイッちゃっているのはわかった。


 勉強で疲れちゃったのかねぇ。人間、ああはなりたくないものだ。


 でもぴーひゃら、ぽんぽんって言ったような……いや、気のせいか。絡まれるのも嫌だしここは距離を置いてとっとと学校に行こう。



 そして学校に到着した俺は二限目の休み時間、机に突っ伏して居眠りを始める。そんな俺につるぎは声をかけてきやがった。


「いつにも増して不健康そうだな。みのりの動画を探していたのか?」


 俺は少しだけ顔を持ち上げ、クマで染まった顔を見せつける。


「ああ、徹夜でずっとな。疲れているから寝させてくれ」

「あいよー。けどその様子だと結果は」

「察してくれ」

「ん」


 つるぎはそれ以上何も言わずあまり触れる事なく自分の席に戻って行く。ほんのり残念そうだったけどあいつもいい報告が聞けるのを期待していたのだろうか。


 けど考えるのも嫌になるくらい眠い。寝よ寝よ。


 ……………。


 ………。


 …。


 悲鳴。


 怒号。


 叫び声。


 最初、それはいつのもように品のない学生が騒いでいるだけかと考え、眠る事を続行しようと思ってしまった。


 だが普段とどこか違う恐怖の感情が混ざったその喧騒に、俺は無理やり叩き起こされてしまった。


「んん?」

「痛い、痛いよぉッ!」


 その異常な光景に俺はまだ夢を見ているのかと思ってしまった。その床に座った男子生徒は泣きわめいて腹部からおびただしい量の血を流していたのだから。


 他の人間も何が起こったのか理解出来ず、凍り付いていたり、ただただ叫んでいたり、急いで教室から逃げ出したり。とにかく何かが起こっている事は理解出来る。


「みんな、逃げろッ! 小西谷こざいがナイフを持って暴れてるッ!」


 誰かがそう叫び、右往左往した人間は一斉に何をすべきか理解してしまった。


「うわあああッ!」

「きゃあああッ!」


 彼らはみな一様に逃げ出し、俺もようやく頭が覚醒した。


 成程、事情はよくわからないが誰かがナイフを持って暴れているのだろう。今言った発言のとおりだけど。


 そうだ、つるぎは!


 俺は教室を見渡すが彼女はいない。どうやらここにはいないようだ。もっともあいつならナイフを持った人間くらい簡単に倒せるだろうが。


 だが今は自分の心配をせねば。巻き添えを食らう前にとっとと逃げ出そう。俺は群衆に紛れて急いで教室のドアから飛び出した。


 俺はただひたすら廊下を走る。随所に血痕が点在しているがきっと刺された人間のものなのだろう。俺はそれを見てこれが現実だという事を理解した。


 こういう場合はどこに逃げればいいのだろうか。取りあえず避難訓練のようにグラウンドに逃げてみよう。


 しかしその小西谷という人間がどこにいるのか情報が何もない。逃げ出した先にそいつがいてばったり鉢合わせという事態だけは避けるべきだ。


「どけよッ!」

「邪魔だッ!」

「押さないでよッ!」


 だが下の階に繋がる階段は我先に逃げようとした人間によってぎゅうぎゅう詰めになっており、押さない、走らない、喋らないをガン無視した状況になっていた。


「みんな、落ち着いて!」


 その中にはうみちゃんもいて頑張って冷静になるように声をかけていたが、誰一人としてその話に耳を傾ける人間はいない。気の毒だけどそりゃまあ、そうだろうな。


「うーむ」


 けどここは無理っぽいな。ほかに逃げる場所を探そう。そう考えた俺は一旦戻ろうとしたが、ある事を思い出してしまう。


 火事の教訓の『おはし』は、近頃は『おはしも』になっているんだっけ。も、は何だっけ。ああそうだ、戻らない、だったな。


 それは火事でなくても適用されるルールのようだ。なぜなら振り向いた先、廊下の奥で、血塗れのひ弱そうな男子生徒がおぼつかない足取りで歩いてきているのだから。


 それが被害者であればどれだけ良かったか。しかしその男子生徒はダガーナイフを右手に握りしめ、尋常ではない量の返り血を浴びていて、その顔は未開の地の蛮族のように赤く染まっていた。間違いない、こいつは小西谷だ!


 しかもそいつは今朝目撃したあの生徒だった。どうやらあの時声をかけなくて正解だったようだ。もしそうしていたのなら俺が犠牲者第一号になっていただろう。


「すぐそこにいるぞッ!」

「ひぃぃいいッ!」


 誰かが小西谷の存在に気が付き現場はパニックになってしまう。それはより一層避難を難しくしてしまった。


 間近に迫る死の恐怖に俺もさすがに発狂しそうになってしまう。これがゲームとかなら選択肢が登場するタイミングだろう。


 間違えれば当然ゲームオーバーだ。そしてセーブもロードも出来ないのでそれは死を意味する。

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