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2-11 パラレルワールドと都市伝説

 家に帰った俺は、いつものように夜更かししながらお菓子と炭酸飲料を片手にゲームをしていた。


 そしてレベル上げ作業がひと段落したところで一旦ゲームをやめ、俺はノートパソコンをいじりネットサーフィンをする。


 ちなみにこれはうちの学校にいる師匠と呼ぶべき先生から貰ったもので、彼が自作してくれたこのノートパソコンは市販のもののみならず、本職の人間が持っているような最先端のパソコンを軽く凌駕する性能である。


 膨大なデータ容量とどのようなネトゲでもぬるぬる動くハイスペックは俺の廃人ライフの頼れるパートナーとなっている。けどこんなパソコンを作れるなんて、あの先生は何者なのだろうか。


 まあいいや、今は調べものだ。なんか面白いネタはないかな。


 俺は退屈を紛らわすための刺激的なネタを求めていた。現実を忘れられるような飛び切りダークなネットロアを。


 ネットの海を泳いでいた俺はいつの間にか暗雲が立ち込める海域に迷い込む。といってもただのSNSのチャットやり取りだけれど、それはなかなかに興味深いものだった。


『はまぐり君:この間の浪花なにわ市の事件覚えてるだろ、通り魔のアレ。サラリーマンが包丁持って暴れたやつ。車にはねられて死んだけど。あれな、実は普通の事件じゃないんだよ。聞きたい?』

『のみこ:話したいんでしょ、とっとと話せば』

『はまぐり君:あのサラリーマンはな、事件を起こす前笑いながらうわ言のように呟いていたんだ。『ぴーひゃら、ぽんぽん』ってな。これはニュースでも報道してたりしてなかったりしてるが』

『錦様ラブ:なにそれ、歌ってたって事?』

『リッキー:ストレスで頭がおかしくなったから歌いだしただけじゃね。日本はストレス社会だからなー』

『はまぐり君:普通はそう考えるよな。けど違うんだよ。こいつだけじゃないんだ。ここ最近猟奇的な事件を起こした多くの人間が『ぴーひゃら、ぽんぽん』って、歌ってたんだよ』

『むにむに:ゴクリ……』

『はまぐり君:そう、連中は全員事件を起こす前に笛と鼓の音を聞いていたんだ。その音を聞いた人間は例外なく狂ってしまい、人を殺したり、暴力的な衝動に駆られたりしてしまうんだ。ほうら、お前にも聞こえてきただろう……『ぴーひゃら、ぽんぽん』って』

『むにむに:ヒィィイ!』

『錦様ラブ:キャー! って言えばいいのかな』

『のみこ:話はそれだけ? 嘘でも盛れば』

『はまぐり君:お前ら冷たいなあ。ならとあるなろう小説作家が岡山にいたころ実際に体験したファ○アーノ岡山とパラレルワールドに関する話はどうだ』

『リッキー:あれだろ、女子のワールドカップで結果を出した選手がいた湯○ベルのせいで、県民とサッカー協会が一夜にして見限ってお土産売り場とかから一掃されたって奴だよな』

『はまぐり君:悲しくなるから言わないでよ! 俺ファ○アーノ岡山のファンなんだし!』


 そこまで読み進めたところで暗雲はたちまち晴れてしまう。信憑性も低ければ詳細な情報もないしどうやら結局大した事のない話のようだった。


 でも『ぴーひゃら、ぽんぽん』か……あの時もそんな音を聞いたなあ。多分極限状態が作り出した幻聴の類だろうけど。


 めぼしいネタもないし、動画でも見に行こうかと思ったその時、話を主導していた人物が声高に叫ぶ。


『はまぐり君:次、次のネタは飛び切りだから! 鈴木みのりの都市伝説だよ!』

「っ」


 久しく他者から聞いていないその名前が出た事で俺のマウスを操作する手は止まってしまう。そして画面に釘付けになってしまった。


『はまぐり君:そもそもみんなは鈴木みのりの事を覚えているか? ちょっと前に一世を風靡した人気子役だけど』

『リッキー:一応知ってはいるけど』

『むにむに:自分は知らないです』

『錦様ラブ:あー、昔はよくテレビで出てましたね。確か不慮の事故で無くなったんでしたっけ』

『肉まみれ:やらかして干されたんじゃ』


 まあ予想はしていたが皆こんなものか。もう誰も彼女の事を思い出す事すらないのだろう。テレビから消えた芸能人なんてそんなものだ。


 わかってはいたがやはり寂しいものがある。鈴木みのりという少女が忘れ去られてしまったという事実は。


『はまぐり君:なら説明するよ。鈴木みのりは一世を風靡した天才子役であり歌手だった。だが数年前、鳥取の中部で発生した震災によりがれきの下敷きになった彼女は帰らぬ人になったんだ。しかし死後もなお、その類まれなるギターのテクニックは今なお高く評価されている』


 みのりは生きているというのに早速誤情報が流されたので俺は訂正したかったが、無駄と判断して思いとどまる。この時点でもう胡散臭いけれどちょっと気になるから読んでみよう。


『はまぐり君:だけどな、成長した彼女を動画サイトで見たって人が何人もいるんだ。その動画に映っているのは廃墟の日本で、彼女はそこでもう一人の少女とともに動画を撮影し投稿しているみたいなんだ。巷では、そこはこことは違うもう一つの世界で鈴木みのりはパラレルワールドで生きている、なんて言われている』

『のみこ:ふーん』

『はまぐり君:信じてないな? けど動画は存在するらしい。これは多分確実だ』


 はまぐり君は薄い反応についついムッとしてしまったようだ。多分なのか確実なのかどっちかにしろよ。


『肉まみれ:現実的な考え方をするならそういうコンセプトの動画なのかもね』

『むにむに:でも、こっちはなんだか面白そうな話ですね』

『はまぐり君:ああ、興味があれば動画サイトで探してみるといい。詳しい事はよくわからないが、波長みたいなものが合えればその動画を見る事が出来るそうだ』

「……………」


 死んだはずの鈴木みのりがパラレルワールドで生きている、か。そもそも彼女は一応生きているんだが。


 物言わぬ彼女が好き放題に書かれ都市伝説となってしまっているのは腹立たしいが、忘れられるよりはマシだろうと俺は無理やりポジティブに考える。真偽はさておき、裏を返せば彼女の音楽を多くの人が忘れられなかったからこんな噂話が生まれたのだから。


 けど、そうか。眉唾物の話だがもし彼女の歌をまた聞けるのならこんなに嬉しい事はない。


 時間はいくらでもあるし今度調べてみるとしようか。たとえ現実逃避だとしても暇つぶしにはなるだろうし。

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