2-8 廃神ゲーマーヒロ
パープルシティは白倉一のショッピングモールだ。いや、正確には白倉唯一の大型商業施設である。
映画館や食料品店、衣類やゲームセンターと娯楽に必要な最低限のものはそろっているので白倉中の若者全員がここに集まっちゃうわけだ。同級生とエンカウントするのは嫌だがそこは我慢しよう。
ゲーセンという戦場に俺は降り立つ。さあ、暴れようか!
まずはメジャーどころから。俺は太古の達人に向かい迷わず二人プレイを選択する。
『トリケ、ヴェロ、アロサ、ティラノサウルス!』
慣れた手つきで最高難易度を選び俺は素早く曲を選択し、両手にバチを装備して戦闘モードに入った!
ドンドンカカカッッ!
俺は二つの太鼓を同時に叩き極上の難易度を楽しんでいると、その異次元な腕前にギャラリーが続々と集まってくる。
「こ、これは達人じゃない、廃神だッ! お前たち見るなッ! これは子供に見せちゃいけない気持ち悪さだッ! トラウマ級の上手さだッ!」
「ええ、私も彼氏との初デートでこれをやってドン引かれたわ……」
なんだかみんな好き放題言っているし。まあ女の人は当然だろう。この手のゲームって上手過ぎる人は気持ち悪がられるからなあ。カップルは大人しくクレーンゲームでもしておこうな。
「まさか、かような辺境の地にこのような猛者がいたとはのう!」
「これは急いで王に報告せねば! 必ずや我らの計画の妨げになるだろう!」
なんか世紀末っぽい世界観ァンがおかしいマッチョがいるけどきっとコスプレをした人だな、うん。
さあ、フィニッシュッ!
ドドドドドッドドッドドッ!
「嗚呼……俺たちは神を見た」
「ありがたやありがたや」
いい運動をしたなあ。次はクレーンゲームをしてみるか。俺は手を合わせて拝むギャラリーを無視しクレーンゲームの筐体が並ぶエリアに移動する。
「うう、取れないよ~。お小遣いが……ガァ!?」
少ないお小遣いで猫のぬいぐるみを狙っていた小さな女の子は、俺のプレイを眺めて絶句した。
何故ならひよこのぬいぐるみは掃除機で吸い取るように穴へと吸い込まれボトボトと受け取り口に落下していたのだから。それはさながら工場で飼育されている食肉用のひよこのようだった。
「す、すごい! でもキモイ!」
「これが高校生の力だ。ほら、そこをどけ」
俺は彼女が悪戦苦闘していた猫のぬいぐるみを一発で仕留めほらよ、と彼女に手渡した。
「わあ! ありがとう! 私もキモイ人みたいに上手になれるかな?」
「やめておけ。お前は俺のようになるんじゃない。俺はここまで来るのに多くの小銭を払ってしまったからな」
ニヒルな笑みをして俺は目を輝かせる彼女が道を踏み外さないようにアドバイスをする。けれど幼女からキモイ人と認定されるのは悲しいような、ちょっと気持ちいいような。
さあ、いよいよ格闘ゲームをしてみるか、って……!?
「よう」
「つるぎ? なんでここに」
そこにいたのはレスリングの練習をしているはずのつるぎだった。彼女は俺を見ると不敵な笑みを浮かべ手を挙げて挨拶をする。
よく見ると彼女の周囲にもギャラリーが集まっていた。レスリングの天才である彼女は格闘ゲームも得意なのだ。
「大方ここに来ると思っていたぞ。ほら、とっとと座れ」
「ま、いいけど。周りはみんな雑魚ばかりだからな」
「クックック、同感だ、さあ来い!」
特段断る理由もないので俺は彼女の言うとおり向かい合って座る。俺は愛用の美少女キャラを使うが、つるぎはガチムチのマッチョだ。
けど、このキャラを使うって事は……あれだよなあ!
「うりゃりゃりゃ!」
「開始早々ハメ技コンボはやめろ!」
つるぎはプライドもなにもない戦い方をしてシステムの抜け道をついたハメ技を繰り出してくる。そのすべてがガード不能の技で俺のキャラは悲鳴を上げてしまった。
「くそう! ハメ技にはハメ技を! お前は俺を怒らせたァ! 下段下段ホイ! 下段下段ホイ!」
「キシェー! 上等だゲヒヒ! この筋肉でお前を蹂躙してやるよォ! 筋肉があればすべては正義になるのだァ!」
そして俺たちはハメ技を人目もはばからずに繰り出す。バグではないのでこれはセーフだ!
「ママー、怖いよー!」
「な、なんて醜い争い! これが戦争なの!? 見ちゃいけません!」
「フッ、お前もしゃがんでソニックブームとサマーソルトをしていただろう。それでリアルファイトになってなんやかんやでラブホテルに行ってしまい結婚してしまったな」
「ええ、あんなスーパーごっつぁん砲を食らって惚れないわけがないじゃない、うふふ」
ギャラリーの夫婦には過去何があったのだろうか。そのなんやかんやがとても気になるな。あと娘の前でそういう会話はすべきじゃないぞ。
「なんと! ここにも廃神がいたのか! 鳥取は恐ろしいところだ!」
「うむ、ここは危険度評価を最大限に引き上げねば! 来るべき最終戦争に備えて!」
だからあいつらはどんな世界観ァンの住人だ。
「よそ見するなよ!」
「オギャ!?」
しかしほんの一瞬のスキを突かれつるぎのハメ技コンボを食らい俺の相棒は撃破されてしまう。負けたけど、楽しい時間を過ごせたしよかったかな。
「ふう、こんなもんか。けどつるぎ、お前どうしてここに? 練習はどうしたんだ?」
「もう終わったよ。オーバーワークは逆効果だしな」
「ああそう。んじゃ」
俺は適当に相槌を打って席を立つと彼女は俺の後を追い右肩をガシッと掴む。それはさながら不良が絡むように圧を感じるものだった。
「このあと暇か? 暇なんだよな。うちで飯を食ってこいよ」
「拒否権は」
「ない」
「ですよねー」
俺は抵抗する事を諦めメスゴリラに連行される。ま、めぼしいゲームはやり尽くしたし身を委ねるとしようか。