2-7 ホームレスの男と缶コーヒー
もうすぐ日没だがどこに行くべきか。
どこだっていい。ここじゃない、どこかならば。
ここはひとつ、盗んだバイクで走りだしてみようか。
だけど免許がないのでバイクの代わりに錆びついたママチャリで町を駆け当てもなくうろついてみる。ライトをつけるべきか微妙な明るさだがつけないでおこう。
俺には逃げ出す度胸なんてない。だから居眠り運転をしたトラックにはねられて異世界に連れて行ってもらう事を望んでしまうのだ。
けれど鳥取県民は運転マナーが良くなかなかその機会は訪れなかった。少し見渡せば飲酒運転をしている人間はそこいらじゅうにいるけども。
あの頃、精神を病み壊れてしまった父さんもこんな気持ちを抱いていたのだろうか。
俺は知らず知らずのうちに思考回路が自分の嫌いな人間と似てしまっていた事を恥じてしまう。結局血は抗えないという事なのだろう。
「?」
だけどその時、俺は河川敷にたたずむ人間を見かけ不意に足を止めてしまう。
その白髪の男はボロボロのコートを着て、汚れたブルーシートに座り、缶コーヒーを飲んでくつろいでいた。
少し考えればわかる。あの男はホームレスなのだろう。
けど珍しいな。ああいうのがいるのは大抵は都市部の繁華街みたいな生きた街なのに。
ホームレスにしては小綺麗だから二、三日に一回くらいは風呂に入っているようには思える。金を持っているタイプのホームレスなのだろうか。
だがそんな見た目よりも彼はどこかホームレスとは違う、神々しい雰囲気を醸し出していた。
よく見ると肌は若々しく髪の毛と年齢が合っていない。それはまるで現人神のような風貌で、俺は奇妙な緊張感に襲われる。
だが俺の視線に気が付き、ホームレスの男はこちらに振り向いて無表情な顔を見せつけた。
「ととっ」
俺は慌てて彼から目をそらし、距離をとるため自転車に乗ってその場から走り去った。
何を馬鹿な妄想しているんだ。彼はどこにでもいるただのホームレスでそれ以上でも以下でもない。あんまりじろじろ見るものでもないな。
それにホームレスも皆が安全な存在というわけでもない。ムショから出た奴や薬物中毒者、頭のねじがどっか行った奴もいるだろう。知り合いでもなければ関わる必要なんてないのだ。
数分後には、俺は社会から追放された彼の事なんてすっかり忘れてしまった。
さて、どこに行くか。気晴らしにパープルシティのゲーセンにでも行こうかな。