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2-4 つるぎの取材(あとノ〇ファンの皆さんすみません)

 俺は一応、授業を受けておく。


 虐めの類はないとはいえ不真面目な俺に対しては向けられる視線は好意的ではなかった。おまけに俺は勉強しなくてもそこそこ成績はいいから教師や同級生からは嫌われており、いわゆるぼっちに属する人間だ。


 ついでに言うと俺の祖父は山陰で有名な企業の顧問だから、ぶっちゃけ学歴がなくても田舎お得意のコネ入社も出来るしあのジジイもそれを望んでいる。俺は跡を継ぐつもりは毛頭ないとはいえ、周りの人間はそうするものだと思っていたりもして、妬みや嫉みの対象となりその事が孤立に拍車もかけていた。


 疲れる。ただただしんどかった。


 うみちゃんに余計な事を話したせいでブルーになってしまったな。次の授業はサボるとしようか。



 スマホのゲームで時間を潰し気が付けば放課後になってしまった。だが廊下を歩いていると遠くに体操服姿のつるぎを発見してしまう。


 挨拶をする気にはなれなかったし出来ないだろう。彼女の周りにはいつものようにテレビ局のスタッフが集まっており密着取材を受けていたのだから。


 いや、普段とは違う。カメラについているあのロゴは地元のものではなく全国ネットのものだ。大方よくある天才高校生みたいなのを紹介する番組なのだろう。あいつも偉くなったもんだ。


「えーと、これから練習に向かうわけですけど地味ですよ? 今日のトレーニングはそんなにカメラ映えしませんし」


 軽く打ち合わせをしていたその時のつるぎの顔は俺に向けるのとは違う笑顔をしていた。慣れない敬語なんてもの使いやがって。


「うーん、どうせなら技とかを繰り出すような派手なやつがいいかな。取材の時間や放送の尺もそんなにないし、視聴率も取れそうだから。真壁さんのほうからもお願い出来ます?」

「あ、はい」


 つるぎはそんな提案をした失礼なスタッフに対しても、嫌な顔一つせず承諾した。


 練習に派手さは必要ない。泥と汗にまみれて行ってきた地味な努力こそが今の彼女を形作ったのだ。その事をしょうもない理屈で否定され俺はイラっとしてしまう。


「あ、つるぎちゃん、また取材?」

「ん、ああ」


 その時、取材を受けるつるぎに目立ちたがり屋の同級生がカメラに映りたいがためにわざとらしく絡む。突然のハプニングにスタッフも若干戸惑ってしまった。


「スタッフさーん、つるぎちゃんの恋バナとか聞きたい? いろいろ話せるよ!」

「ちょっ!?」


 そしてろくにつるぎの事も知らない自称友人の同級生がそんな事を言ったので、彼女はかなり困惑してしまう。


「え、どんな話?」

「いいから、いいですから!」

「つるぎちゃんはね、浪花なにわセブンの天王寺てんのうじ美人よしとに似てる、サッカー部の、」


 だが無情にもスタッフが食いついてしまったのでつるぎは止めに入る。しかしそんな事お構いなしに、自称友人はテンプレな回答をしようとした。


「それなら俺のほうが詳しいぞ。幼馴染だから」


 しゃーない、親友の虚像が好き放題に作られるその光景は見るに堪えられないし、ここは助太刀してやるか。


「え?」

「ん?」

「ほっ」


 突然会話に割り込んだ変人に全員が混乱してしまうが、つるぎだけは助かったと安心したような表情になる。カメラに映るのは嫌だが多分全カットされるだろうしここは好き放題に言おう。


「つるぎの好みのタイプは矢○通、あるいは中○学やブルージャスティスだ。メスゴリラのこいつはゴリラみたいな男が好みなんだよ」

「おおう、そ、そのとおりです! 棚○とか飯○幸太なんてもんは邪道です! そして顔だけでレスラーを選ぶプ女子とかクソです! 特にノ○のレスラーが好きなプ女子は九割九分九厘クソです! あんなとこ図体ばかりでかくて腰抜けの連中しかいません! 個人の見解ですが!」

「お、おお……」


 つるぎは俺の助け舟に全力で乗っかり変な空気が流れてしまう。別にプロレス好きなのは事実なので嘘は言っていないしこれが本来の彼女なのだ。


 アイドルなんて、もっと言えば恋なんてものに興味はない。レスリングに懸命に打ち込む彼女はマットこそが恋人なのだから。


「ああそうそう。もうすぐこいつは大事な練習試合があるので、その調整に支障が出るような事になったらネットにチクりますからね」

「え、あ、ああ」


 俺はそう言い残して通り過ぎるように立ち去り背を向けたまま手を振った。その時小さな声でつるぎが、


「サンキューな」


 と、恥ずかしそうに呟いた気がした。


 さて、道草を食ってしまった。とっととあいつのところに向かうか。

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