2-2 過疎化の進む鳥取県白倉市
自転車を押しながら、俺はのんびり学校へと向かった。
同級生はもちろん、歩いている人間すらほとんど見当たらない。このまま行けば遅刻は確実だろう。
鳥取県中部にある県内第三の都市、白倉市。人口は五万人を切っており、東部にある県庁所在地の星鳥市や、西部にある山陰の中心とも呼ぶべき商都の稲子市と比べると行政の面でも経済面でも影が薄い都市である。
一応紡績業が昔からあるが漆喰の白壁土蔵群や、最近ではフィギュアの博物館もあり観光に特化している市だ。だがこの前もまた大きな工場が閉鎖されたしハッキリ言って過疎化の進む町と言えるだろう。そんなわけで町には人がいないわけだ。
ん、梨の歴史館? あんなところ誰も行かねぇよ。建物丸々一つを使って梨の栽培の歴史を紹介されてもねぇ。
のどかな白壁土蔵群のエリアに自転車の車輪が回る音と溝のような小川のせせらぎだけが聞こえる。時折自動車の走行音が聞こえるが、世界が滅亡したのではないかと思うくらい町は静寂に包まれていた。
高校二年生、二学期の中盤。月日が経つのは早いものだ。
ほんのり寒くなった外気を吸い込むとはらりと紅葉が川に落ち、そのまま流れていく様を俺は自然と目で追ってしまう。
語彙力があれば俳句を読めそうだが、俺の澱んだ眼はもうそれを見て何とも思わなくなっていた。
白倉は過疎化の進む未来のない町。それ以上でも以下でもない。
なんの気なしに右方向の店に視線を向けるとアニメ調のイラストが描かれたイベントの告知をするポスターが貼られている。脱出ゲームのようなものでもするのだろうか。
行政は迷走気味に頑張ってはいるが正直この町に未来はない。消滅可能性都市の最先端を行く山陰地方は、過疎が進む未来で真っ先に滅んでしまうのだろう。
静かだ。静かすぎる。けれど悪くはない。
俺は賑やかなのは苦手だから。教室で喧騒の中にいると自分の心はすり減ってしまう。サボり癖がついたのもそれが原因の一つだった。
ある時俺は理解したんだ。あの中にいると押しつぶされてしまうのだと。
漠然とした不快感と恐怖はひどくおぞましく名もなき恐怖が心を支配してしまう。この感情はつるぎや彼女の両親のように光の当たる場所で生きている人間には決してわからないだろう。
いつからか俺は彼女のそばにいる事をやめた。つるぎもレスリングで忙しくなったし、理由は十分だ。なのにあいつはちょくちょく俺の様子を見に来る。
それがありがたくもあり辛かった。俺のような闇の世界の住人にとってあいつのどこまでも前向きな笑顔は眩しすぎるから。
昔はやんちゃだった俺だけど、様々な試練を乗り越える事が出来ず道を踏み外してしまった。そんなわけでこうして毎日ゲームにいそしむ廃人になったわけである。
ゲームをするための時間は無限にある。進学も面倒くさいし、そもそも卒業出来るかどうかも怪しいし。俺にとっては将来なんの役にも立たない勉強なんてしている暇があるのならゲームでもしたほうがよほど有意義だ。
本当はこの町も今すぐに出ていきたかった。ここには辛い記憶があり過ぎるから。
(適当に時間潰すか)
どうせ一時限目は遅刻だ。俺はいつものように適当な店先で自転車を止め、スマホを操作してゲームを始めた。
お、レア素材ゲット、ラッキー。