エピローグ もう一度始まる誰かとの旅
そして、季節がいくつも巡って。
(もう、ワタシは何も思い出せませんが)
長い長い年月が過ぎ去って。
(あの場所は、とても温かくて、優しくて)
ワタシの記憶からは、皆さんの記憶が徐々に失われていきました。
(皆さんは、ワタシにたくさんの幸せな思い出をくださいました)
でも、何も怖くありません。
(だから、ワタシはとても幸せデス)
彼女とまた会える事を知っていましたから。
(さようなら)
梨の歴史館の樹の根元で梨の守り神さんに見守られ、静かに眠りながら、ワタシは彼女が来るのをずっと、ずっと待ち続けました。
(そして、初めまして)
今度の彼女は何処の世界の彼女なのでしょうか。
(ワタシの、大切なお友達さん)
とっても、とっても待ち遠しいデス。
どれほどの時が経ったでしょう。
彼女の足音が聞こえてきます。
彼女は導かれるように、ワタシがいる場所へとたどり着きました。
「っ」
天井は崩落し、太陽の光が差し込み、円形の室内の中央にある梨の巨木を照らしています。彼女が視線をおろした先には草花で包まれた謎の巨大な球体があり、蜜を求める蝶が群がっていました。
そこでワタシは丸まって、穏やかな寝息を立てていました。
「人間……!?」
「……………?」
人の存在に気が付きワタシはゆっくりと目を開けます。そしてむくりと身体を持ち起こし、寝ぼけながら彼女ににっこりと微笑みました。
「ただいま、デス」
どうしてそんな言葉を言ったのかワタシにもわかりませんでした。けれど自然とその言葉が出たのデス。
「え」
彼女はわけがわからなかったみたいですが、取りあえず、
「おかえりなさい……?」
戸惑いつつも、そう、ワタシに返答しました。
デスが夢を見ていると思ったワタシは、安らかな顔のまままぶたを閉じてまた眠りに落ちてしまいました。
これからまた始まる、まだ知らない彼女との新しい旅を夢見ながら。
きっときらきらで、幸せで、楽しい日々が待っているのでしょう。
何度でも、いつまでも。
これからも、この終わってしまった残滓の世界で。
彼女に会うために、ワタシはこの物語の記録をリテイクする事でしょう。
――さあ、もう一度物語を始めましょう。ワタシの大切なお友達さん。