6-36 まだ見ぬ親友を待ち続けて
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再起動。
ぼんやりとした意識が次第に覚醒しパチパチという音が聞こえます。それは焚火の音で、一人の男の人がその傍らでコーヒーを飲んでいました。
「目が覚めたか、ナビ子」
「トオルさん……」
何故自分は毛布にくるまっているのか、今がどういう状況なのか理解が追い付いていませんでしたが、メモリーを参照し状況を把握しました。
これはおそらくみのりさんと会うずっとずっと前。トオルさんがまだこの世界にいた頃でしょう。そして彼以外の終末だらずチャンネルのメンバーがいなくなった……。
「ワタシは長い、夢を見ていた気がします。とっても幸せな夢を……」
「そうか」
トオルさんは深く追求せず、寂しそうにコーヒーを飲み続けます。時期的にもうすぐ彼は旅立ってしまうでしょう。
デスが何度も経験しているのでワタシは覚悟していました。悲しいものは悲しいデスけどね。
「それでお前はもう一度繰り返すのか。また何百年も待ち続けるのか」
「もちろんデス。たった数百年待てばいいだけデスし」
「そうか」
トオルさんはそれっきり何も言いません。その答えはとっくにわかっていましたからね。
「眠っとけ。長旅になるだろうし」
「はい、そうします」
ワタシはそう返事をして再び瞳を閉じました。遠い未来で待っている彼女と巡り合うために。
そして――しばらくしてからトオルさんはどこか遠くに行ってしまいました。何度繰り返しても、やっぱり寂しいものデス。
この結末はわかっていたのに。
ひとしきり泣いた後、泣くのをやめたワタシは気持ちを切り替えて彼女を迎え入れる準備をします。
悲しんでいる暇はありません。ワタシにはやらなければいけない事がありますから。少しでもこの過酷な世界での彼女の生存確率を上げて、充実した生活を過ごしてもらうためにも。
ワタシはもう、彼女の名前を思い出す事も出来ませんが。
「えっさ、ほいさ! 農作業は最高デス!」
名前も知れない誰かを待ち続けワタシは鍬を振るい今日も農作業に勤しみます。畑が無くても何とかなりますが、やっぱり美味しいものを食べると幸せになれますからね。ワタシが食べたいっていうのもありますけれど。
「むむむ」
畑をある程度開墾したところでワタシはアコースティックギターを作ります。といってもそのまま作ったらすぐに壊れちゃうので荒木の一族特製の防腐剤も使いましょう。
「ふんふんふ~ん」
ワタシは誰かがワタシのために作ってくれた歌を歌いながら、愛情をこめてギターを作ります。
これを作るのもこれで何個目でしょうか。ワタシはロボットデスが流石にもう匠の域に達しているでしょう。これは彼女の旅には欠かせないアイテムになるので特にいいものを作らないといけません。
ワタシに前の世界の記憶があるうちに、全ての作業を終わらせないと。